IPやMPLS技術で知られるネットワーク技術ベンダの米Juniper Networksが、モバイル向け技術にフォーカスを拡大している。同社は2月、端末側のセキュリティクライアントやデータオフロード技術などモバイル向けの新ソリューションを発表、ポートフォリオを拡充した。同社のEMEA担当サービスプロバイダーマーケティングディレクター Paul Gainham氏は、その狙いを「オペレータに関連のあるサービスを提供できるパートナーになること」と語る。
2月18日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2010」で、Gainham氏に話を聞いた。
Paul Gainham氏。モバイル分野ではフィンランドNokia Siemens Networksと協業する。強みは、卓越した技術とIPで築いた知名度。同社のIP技術は、NTT、BT、China Telecomなど世界の大手サービスプロバイダ100社すべてが利用している |
Mobile World CongessでJuniperは、
- サードパーティのアプリケーションを搭載可能となるJunos Ready Software
- デバイス向けセキュリティJunos Pulse
- アプリケーションの保護Juniper Mobile Secure
- データオフロードJuniper Traffic Direct
- 動画コンテンツ向け効率化技術Juniper Media Flow
- 3Gから4Gへの移行を推進するJuniper Mobile Core Evolution
を発表した。そのうち、注目度が高い3つのソリューションについて、Gainham氏に説明してもらった。
データ量が増えても収益は増えない!? "Trafic Direct"でトラフィックの最適化を
4のTraffic Directは、このところ注目が高まっているデータオフロード技術。同社の既存ルーティングプラットフォーム「MX 3D」に追加し、トラフィック急増に対応する効率化ソリューションとなる。インターネットへのトラフィックならそのままインターネットに送り、SMSサーバ向けのトラフィックはSMSサーバに送る、というように、不要なトラフィックをメイン部分からはずして迂回させるものだ。
データオフロード技術を提供する背景について、Gainham氏は、「オペレータが直面する重要な課題」を指摘する。「iPhone」に代表されるスマートフォンユーザーがデータ通信を大量に利用するようになり、キャパシティ需要が増加している。トラフィックはオペレータにとってコスト増を意味するが、顧客から得られる売り上げはトラフィック増に比例していない。どちらかというとトラフィックは急激に増加しているが売り上げは横ばい、というのが多くの実情だろう。「ビットあたりの収益は下がっている。オペレータはトラフィックの増加を管理するソリューションが必要だ」とGainham氏は述べる。
増加の一途を辿る動画データ - 動画のキャッシュでコストを抑える"Media Flow"
5のMedia Flowはモバイルのトレンドである動画トラフィックを解決する技術だ。PCのインターネットトラフィックで70 - 90%を占めるといわれる動画。この"動画の波"がモバイルに押し寄せるのは時間の問題だ。現在、「YouTube」だけでモバイルデータトラフィックの10%程度を占めるともいわれている。スマートフォンが普及するにつれ、動画コンテンツが急増することは間違いないだろう。
Media Flowはインテリジェントなキャッシュ技術で、よくアクセスされる動画コンテンツを端末に近いキャッシュポイントに置くなど、需要のボリュームに合わせてスマートにキャッシュポイントを変えるソリューションだ。帯域にかかるコストは高価だ。キャッシュを利用することでオペレータは帯域に新たに投資することなく、ストレージコストのみでレスポンスや顧客エクスペリエンスを改善できるという。
「新しいインターネット世代は、FacebookやYouTubeとアプリケーションを問わずにモバイルで動画を使う」とGainham氏。さらには3D動画、HD動画など高度な技術が開発されており、これらは動画コンテンツへの需要を押し上げることになる。「オペレータは動画トラフィックへの対応という課題を解決しないと、ビジネスの持続性に関わる深刻な事態に陥る」とGainham氏。これは同時にチャンスでもあり、快適なビデオ体験をもたらすことで差別化につなげることができる。Gainham氏は、Media Flowを「ビデオのバリューチェーンのひとつ」として位置づけてほしい、と続ける。
"Junos Pulse" - 携帯端末からのアクセスにも十分なセキュリティを!
Gainham氏がもう1つ強調した新製品が、2のJunos Pulseだ。モバイル端末側のクライアント技術で、遠隔からネットワークにアクセスするビジネスユーザーに安全な通信を提供するものだ。Symbian、Android、Windows Mobileなど4種類のプラットフォームに対応する。
同製品はJuniperにとって初めてのモバイル端末側技術となるが、「優れたパケット技術を提供するベンダから、端末までカバーする安全なソリューションを提供するベンダになる」とGainham氏。今後、トータルソリューションベンダを狙う同社にとって、戦略的な製品となりそうだ。
MWCではHSPA+、LTEなどの次世代の通信技術が主役となったが、データオフロードや動画コンテンツ向けの効率化技術が登場することはオペレータの現状を示唆している。
「最新ネットワークへのアップグレードは、技術というよりビジネス上の決断となる」とGainham氏。LTEは、音声、テキスト、動画などのデータをすべてIPベースにできるため、オペレータはインフラの簡素化というメリットを得られるし、ユーザーにはスピードのメリットを与える。「このように技術メリットは明確だが、オペレータは1人からどれぐらいの収益を得られるのかビジネスの正当性が実証されていない。ビジネス上の不確定さがある」とGainham氏はまとめる。
モバイルブロードバンドが本格化し、価格競争に入る時代、オペレータは単なるネットワークアップグレードだけでなく、効率化ソリューションを利用してコストとサービスのバランスをとることが戦略的に重要となりそうだ。