フィックスターズは3月3日、同社の提供するLinux「Yellow Dog Linux」として、NVIDIAが提供するGPUコンピューティングアーキテクチャ「CUDA」に対応した商用Linux OS「Yellow Dog Enterprise Linux for CUDA」の提供を開始したことを発表した。
Yellow Dog Linux(YDL)は1999年に提供が開始されたLinux OS。Red Hat Enterprise Linux(RHEL)をベース(現在はCentOSをベース)に、Powerアーキテクチャをサポートすることをコミットしてきたことで、世界中に約50万のユーザーを有しており、商用サポート版は「Yellow Dog Enterprise Linux(YDEL)」となっている。
CellなどPowerアーキテクチャベースのCPUシステムを幅広くサポートしており、代表的なものとして「Apple PowerMacs」「PLAYSTATION 3(PS3)」「IBM System p」「IBM BladeCenter QS21/22」「Sony ZEGO BCU-100」などが挙げられる。
YDEL for CUDAは、Yellow Dogの名を冠したLinuxでありながら、Powerアーキテクチャではなくx86アーキテクチャに対応したまったく別の系譜のLinuxで、NVIDIAのGPUをアクセラレータとするx86システム用OSとなっている。同社では、「YDEL for LinuxはYellow Dogの名を冠してはいるが、従来のYDELとは系譜はまったく違うものと思ってもらいたい。これまでのYDELは、Powerアーキテクチャ向けとして今後も提供を続けていくことを保証する」としている。
同社としても、従来のYDELユーザーに対して非常に気を使っており、CUDA対応の新Linuxということで、それなりの名称を新たに冠しても良かったのではないかという話もあったが、まだまだメーリングリストなどで活発にYDLに関する話題がユーザー間でやりとりされていることなどから、今後もPowerアーキテクチャのユーザーを尊重していく意味も込めて、名称を残したという。
YDEL for CUDAには5つの特長がある。1つ目はCUDAのドライバやツールキットなどがはじめから入っているため、コマンドラインを書き込むのではなく、GUIを活用し、アイコンを押すだけでサンプルコードをすぐに動かすことができるという点。
また、CUDAのバージョンを2.1/2.2/2.3および3.0βから選択してインストールすることができるため、開発状況に応じて最適なCUDAを導入することができるよう配慮されており、同社では「これを入れてもらえれば、目で見て動くところまで苦労なく進むことができる」という。具体的な例を示せば、インストールしてから5分もあれば、サンプルコードを動かして、その様子を見ることができるようなところまで進めることが可能になることを強調している。
2つ目は、「安定したOSの提供が可能」ということ。CUDAやLinuxのバージョンが変わると、それをフィックスターズ内で合わせた状態でテストした後に提供することで、例えばCentOSにCUDAを組み合わせた時などで、状況次第で生じる画面が出てこない、などのエラーを省くことができ、作業効率を向上させることができるようになる。
また、OSやドライバのアップデートも同社内にて確認が行われた後に、YDL.netサービス経由で行われるため、OSやCUDAのインストール/アップデート関連で生じる不具合などを減らすことが可能となる。
さらに、CUDAの再配布権をNVIDIAから受けているため、フィックスターズのWebサイトから、フィックスターズが提供するドライバのほか、NVIDIAが提供するドライバなども一括してダウンロードすることができるようになっている。
「(NVIDIA共同創業者で社長兼CEOの)Jen-Hsun Huang氏からもNVIDIAとして全面的にこの(フィックスターズの)取り組みに対して全面的にバックアップすることを確約してもらっており、現在、最低2週間に1回はCUDAの開発チームとフィックスターズの開発チームが情報のやり取りしている」と、NVIDIAと密接な関係を築くことで、CUDAと親和性の高いLinuxができたとする。
3つ目は「パフォーマンスの向上」。FedoraやRHEL、Ubuntuなどと比べ、システム開発などにおいて不要なプロセスやサービスを停止させることで、最大9%高速にCUDAを実行することが可能となっている。
また、次のバージョンではカーネルそのものに改良を加えることで、他のLinuxディストリビューションに比べ10%以上の性能向上を狙っていくという。
4つ目は「CUDAプログラミングのための開発ツール」を用意したこと。Eclipseベースの統合開発環境を用意したことで、ビジュアル的な開発ができるようになった。ただし、今回提供されるバージョンはあくまでβ版とのことなので、コンパイルやデバッグなど基本的なこと以外のことは開発途中のものが搭載されているという。そのため、カスタマの要望などを積極的に受け入れ、アップデートを行っていく計画としている。
最後の5つ目は「統合的なテクニカルサポート」の提供。これは、LinuxとCUDAの技術サポートをフィックスターズが受け持つということ。大学の研究室などでは無償のLinuxとCUDAを組み合わせてもトライ&エラーで行っていく事も許されるが、企業や独立系研究所などでは有償サポートが要求される場合が多い。しかし、例えばRHELとCUDAを組み合わせた場合、Linux部分はレッドハットに、CUDA部分はNVIDIAにそれぞれ聞くこととなるが、PCI Expressの転送部分の問題などはどちらに聞いてよいかは非常にグレーな部分で、悩ましい問題になる可能性も否めない。
今回、Linux部分もCUDA部分もフィックスターズがサポートを行うことで、さまざまな問題に対して迅速に対応することが可能となり、カスタマ側の負担も減らすことが可能になるという。
このテクニカルサポートは1ライセンスあたり4万5,000円で、1年間の商用Linux OSサポートおよび30日間のCUDAスタートアップサポートが含まれるが、CUDAを活用したアプリケーション開発に対するサポートやポーティングサポートなどは別途開発サポートを契約する必要がある。
販売はGPUコンピューティングなどのハードウェアを取り扱っている代理店経由、もしくはフィックスターズのWebサイトを経由したオンライン直販のいずれか。代理店は現在1社確定しているが、さらに増やしていく意向で、興味を持った代理店はぜひ連絡をいただければとしている。
なお、大学関連など教育用途にはノンサポート版を無償でダウンロード提供するとしており、サポートがない代わりにユーザーフォーラムなどを作ることで、そこで有用な情報交換をしていってもらえればとしている。