パワーデバイスの測定を目的に新たなカーブトレーサが登場

半導体トランジスタの静特性を把握するときに、最も便利な計測器。それが半導体カーブトレーサだ。測定条件をセットアップし、測定治具にトランジスタ(被測定デバイス)を取り付け、測定を始めると、トランジスタの電流電圧特性がモニターに浮かび上がる。

バイポーラ・トランジスタをカーブトレーサで測定すると、コレクタ・エミッタ間電圧とコレクタ電流の関係が、ベース電流をステップ状に変えて表示される。MOSトランジスタを測定すると、ドレイン・ソース間電圧とドレイン電流の関係が、ゲート電圧をステップ状に変えて表示される。トランジスタ回路の学習教科書に出てくる電流電圧特性の図面と同様の曲線を瞬時に把握できる、非常に便利な計測器である。

カーブトレーサを使うときにしばしばイメージされるのは、バイアス条件を変えるための回転ノブだろう。回転ノブを回すとバイアス条件が変わり、これに追随してトランジスタの特性曲線がリアルタイムに変化する。回転ノブを左右に回転させることでユーザーは、トランジスタの静特性を直観的に理解できる。

カーブトレーサの回転ノブと電流電圧特性の表示

このように便利なカーブトレーサだったが、弱点を抱えていた。最大の弱点は、測定精度が低いことだ。定性的な特性は短時間で測定できるもの、定量的な測定にはあまり向かない。定量的な測定には別の計測器が必要となる。

またカーブトレーサが登場したころは、開発現場における半導体デバイスの主流がトランジスタやダイオードなどの個別半導体だった。しかしその後、半導体デバイスの主流はトランジスタではなく、集積回路(ICとLSI)へと移行していった。このためカーブトレーサが電子回路の開発や製造などで使われる機会は減少し、大手計測器ベンダによるカーブトレーサの新製品開発は久しく、途絶えていた。

ところが最近になり、大手計測器ベンダがカーブトレーサの新製品を相次いで発表した。2008年11月にAgilent Technologiesの日本法人であるアジレント・テクノロジーが「B1505A」を発表し、続く2009年7月には岩通計測が「CS-3000シリーズ」を発表したのだ。

これらの新しいカーブトレーサ(次世代カーブトレーサ)が既存のカーブトレーサと異なる点は、大きく2つある。1つは、既存のカーブトレーサは小信号トランジスタの測定を主な目的としていたのに対し、次世代カーブトレーサはパワーデバイスの測定を主な目的としていること。環境保護や省電力などを目的としたパワーエレクトロニクス分野ではパワーデバイスに要求する性能が高まっており、Si半導体はもちろんのこと、SiCやGaNなどの化合物半導体を使ったパワーデバイスが盛んに開発されている。こういったパワーデバイスはIC化が困難であり、単体またはモジュールの状態で特性を評価することが求められる。

もう1つは、パソコン(PC)とのデータ連携を前提に設計されていることだ。次世代カーブトレーサはUSBポートと有線LANポートを標準で備えており、PCとのデータ送受信やPCによるリモート計測などに対応する。既存のカーブトレーサは開発時期がかなり以前になっており、PC技術とネットワーク技術の進化に置き去りにされてしまった。例えばデジタル・データの出力機能をまったく備えていないか、あるいは備えていてもフロッピー・ディスクといった現在ではマイナーなメモリ媒体に対応しているに過ぎなかった。

製品の性格に違いが見える次世代カーブトレーサ

それでは次世代カーブトレーサをもう少し細かくみていこう。アジレントの「B1505A」と岩通計測の「CS-3000シリーズ」では、製品の性格に違いがある。

「B1505A」はパワーデバイス用の半導体パラメトリック・アナライザに、カーブトレーサの機能を追加した計測器という位置付けである。パワーデバイスの電流電圧特性を総合的に測定するシステムになっている。例えば相互コンダクタンス・電流特性や出力抵抗・ゲート電圧特性、静電容量・電圧特性などを測定できる。

さらにB1505Aはモジュール構成を採用しており、必要とする測定仕様に応じて顧客がモジュールを選んで測定システムを構築する仕組みになっている。例えば高電圧を加える測定には、「高電圧ソース/モニタ・ユニット(HVSMU)」と呼ぶモジュールを組み込む。すると最大で±3,000Vの電圧をデバイスに印加できるようになる。また大電流を加える測定には、「大電流ソース/モニタ・ユニット(HCSMU)」と呼ぶモジュールを組み込む。すると最大で20Aの電流(パルス電流)を流せるようになる。また2個のHCSMUを組み合わせると、最大で40Aの電流(パルス電流)を印加可能になる。

B1505Aの価格は税込みでおよそ570万円から。本体の外形寸法は幅420mm×高さ330mm×奥行き575mmである。

「B1505A」の外観(写真は本体のみ。テスト・フィクスチャはケーブル接続される)。開発元のアジレント・テクノロジーは「パワーデバイス・アナライザ/カーブトレーサ」と呼称している。ディスプレイは15型のカラーTFT液晶パネル

「B1505A」と組み合わせるテスト・フィクスチャ「N1259A」。手前中央の治具(テスト・アダプタ・ソケット)を交換することで、異なるパッケージに対応する。なお高電圧印加時にも絶縁を維持するため、コネクタとケーブルにはテフロンを採用している

「N1259A」用テスト・アダプタ・ソケットの例。既存のカーブトレーサの代表といえるTektronixの「370B/371B」と、互換性を備える

「B1505A」の背面パネル。右側がモジュールを挿入するためのスロット。10個のスロットを搭載している

インターロック機構(安全機能)が働いたときのディスプレイ画面。42Vを超える電圧印加の測定でテスト・フィクスチャ「N1259A」のカバーを開くと、インターロック機構がオンになって測定が中断される

一方、「CS-3000シリーズ」はカーブトレーサそのものである。デバイスに印加する電流の違いによって3品種が用意されている。ローエンドモデルの「CS-3100」は高電圧を印加する測定モードは備えるものの、大電流を印加する測定モードは備えていない。高電圧モードでの最大印加電圧は3,000Vである。価格は398万円(税別)。本体の外形寸法は幅424mm×高さ221mm×奥行き555.2mm。

ミッドレンジの「CS-3200」は、CS-3100と同様の高電圧モードのほか、最大ピーク電流400Aの大電流パルスを印加するモードを備える。価格は580万円(税別)である。ハイエンドの「CS-3300」は、最大ピーク電流1,000Aとさらに大きな電流パルスをデバイスに印加できる。価格は750万円(税別)である。

「CS-3200/CS-3300」の外観(写真は本体のみ。テスト・フィクスチャはケーブル接続される)。ディスプレイは8.4型のカラーTFT液晶パネル