産業技術総合研究所(産総研)のダイヤモンド研究センター、単結晶基板開発チームは、インチサイズの単結晶ダイヤモンドウェハを可能とする製造技術を開発したことを明らかにした。
ダイヤモンドは、ワイドバンドギャップや化学的安定性などの特性がSiよりも高く、GaNやSiCを超す高性能パワーデバイスなどへの応用が期待され、国内でも各所で研究が行われてきた半導体材料。しかし、エレクトロニクスへ応用するためには量産に対応可能なサイズの単結晶ダイヤモンドウェハを製造する必要があり、大面積化技術の確立が課題となっていた。
これまで産総研では、ダイヤモンドの大型単結晶製造技術としてイオン注入と電気化学的なエッチングを使う独自の「ダイヤモンドウェハ法」を確立、任意の厚さの板状の単結晶を大量生産する事を可能とし、10mm角のウェハに成功していた。今回、同技術を用いて、性質のそろった単結晶ダイヤモンド薄板を複数作製し、これらの薄板同士を接合することで、より大面積の複合型(モザイク状)の単結晶ダイヤモンドウェハとして1インチ角程度の面積を実現した。
これまでもモザイク状単結晶ウェハを作製する技術はいくつかの研究機関で試みられてきたが、別々に作製された結晶を接合する際に結晶方位をそろえることが極めて困難であり、結晶同士の境界で多結晶やグラファイトが成長して、うまく接合できないといった問題があった。また、従来、それらの基板の大きさが5mm角程度以下と小さなものであることも問題となっていた。
今回、産総研では、こうした問題に対応するため1つの種結晶から複数の薄板状の単結晶ダイヤモンドを作製し、これらの薄板状単結晶同士を接合して、大面積のモザイク状単結晶ウェハを作製した。1つの種結晶から成長させているため、今回使用した薄板状単結晶ダイヤモンドは、その性質や結晶方位のそろった「双子」のような結晶となり、これらを接合して、1枚の大面積単結晶ウェハとするため、結晶間の境界での異常な結晶成長や、うまく接合しないといった問題がほとんど起こらず接合することが可能となった。
この大面積化技術により作製された大面積単結晶ウェハは、結晶間が滑らかに接合され、また、従来よりもはるかに緻密に接合されていることが確認された。このため、研磨加工やダイレクトウェハ法も適用できことから、これを種結晶として使用すれば、所望の枚数の大面積基板を大量に作製することができるようになるという。
また、種結晶からの分離加工技術であるダイレクトウェハ法が1インチ角の大面積のダイヤモンド結晶にも適用できることが実証された。
今回の研究では、すでに作製に成功している10mm角の種結晶を用い、1インチ角の面積を6個の薄板状結晶でカバーしたが、元となる種結晶サイズの拡大が進めば、さらに大きな形状の単結晶を組み合わせてモザイク化することもできると産総研では見込んでいる。
なお、今回作製に成功したインチサイズの単結晶ダイヤモンドウェハについては、1年以内の実用化を図るべく検討していくとしているほか、ダイヤモンド半導体デバイスへの応用を切り拓くためには、より大きなサイズのウェハが必要とされるため、ウェハのさらなる大型化に向け成長・加工装置および手法の改良を行い、均一な2インチウェハの開発を目指すほか、結晶品質をデバイス作製に合致したレベルに引き上げる開発を行っていくとしている。