産業技術総合研究所(産総研)の太陽光発電研究センターは、CIGS(Cu(In,Ga)Se2)薄膜を用い、太陽電池表面に金属導線のない集積型構造のフレキシブル太陽電池サブモジュールにおいて、光電変換効率15.9%(受光面積75.7cm2)を達成したことを発表した。

現在市販されているパネル型CIGS太陽電池モジュールは、1枚のガラス基板上に複数の太陽電池が直列に接続された集積型構造になっているが、フレキシブル型のCIGS太陽電池モジュールでは、これまで金属箔などの基板1枚に1つの太陽電池(単セル)が作製され、複数の太陽電池を導線でつないだグリッド電極型の構造となっているのが特長。これは、フレキシブル基板上では集積型構造の形成が難しく、また高効率化に必要な、高精度なアルカリ添加制御などの課題があり、高い光電変換効率が実現できていないため。なお、GaAsやSiなどの結晶系材料を用いたフレキシブル太陽電池もグリッド電極型の構造となっている。

集積型(左)およびグリッド電極型(右)モジュールの外観と断面構造の概略図

集積型構造では、太陽電池表面のグリッド電極や導線が不要で、1枚の太陽電池でも高い電圧を得ることができる。高効率な集積型フレキシブル太陽電池が実現すれば、搭載製品のデザイン自由度の向上や施工の簡易化などが可能となり、応用範囲の拡大が期待されることとなる。

これまでに産総研は、CIGS層などを数十μm幅で切り分ける集積化プロセス技術を開発、ガラス基板を用いた高効率集積型サブモジュールを実現していた。今回、これらの技術をフレキシブル基板に対し適用、フレキシブルなセラミック基板を用いたCIGS太陽電池の集積化を行った。

また、CIGS系ではNaなどのアルカリ金属を添加することで光電変換効率を向上させるいわゆる「アルカリ効果」が知られているが、パネル型モジュールで用いられるソーダ石灰ガラス以外の基板を用いる場合には、高いアルカリ制御技術が要求されることとなり、これに対応するため産総研では安定なアルカリ供給源としてケイ酸塩ガラス層を基板に形成、その形成条件を変えることでCIGS層へのアルカリ添加量を制御する手法を確立。同技術をサブモジュールのフレキシブル基板に応用することで光電変換効率の向上を図った。

今回開発されたCIGS太陽電池は、フレキシブルセラミック基板を用い、0.1μmのケイ酸塩ガラス層を基板表面に形成、その上にモリブデンの裏面電極層を形成している。発電層であるCIGS薄膜の厚さは約2μmで、蒸着法で形成。1枚の基板上に単セルが直列接続された集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールで光電変換効率15.9%(開放電圧11.59V、短絡電流148.8mA、曲線因子69.9%)を達成したという。

セラミック基板(300μmm厚)を用いて作製した17セル集積型フレキシブルCIGS太陽電池サブモジュールの認証効率測定結

1枚のCIGS太陽電池から得られる電圧は、グリッド電極型では1つの太陽電池分に相当する1V以下であるが、集積型構造にして直列接続することで、集積化された太陽電池の個数分となり10V以上の電圧も可能となる。そのため、高い動作電圧を必要とするデバイスでも1枚の太陽電池による動作が可能となるほか、同集積型太陽電池モジュールは受光面に部分的に影ができても機能することが可能となっている。

10cm×10cm2サイズで100μm厚のセラミック基板を用いて作製した集積型サブモジュールの外観

同サイズで300μm厚基板のサブモジュールから切り出して作製したフレキシブル太陽電池モジュールと、その電力で発光するLED

なお、産総研では、今回開発した要素技術は基本的にさまざまな種類の基板技術に応用可能であるとしており、今後は企業各社との連携により、さらなる大面積基板への応用や、低コストかつ高性能な集積型フレキシブルCIGS太陽電池モジュールの実現とその事業化に向けた研究開発を進めていくとしている。