NTTデータ、日立製作所など国内大手SI事業者6社が共同で2008年4月から活動してきた「システム基盤の発注者要求を見える化する非機能要求グレード検討会(以下、非機能要求グレード検討会)」は2月25日、6社のノウハウに加え、発注者となるユーザ企業の意見を反映してまとめ上げた活動成果「非機能要求グレード」をWeb上で公開した。この非機能要求グレードをベースにすることで「上流の段階で発注者側と受注者側で共通の認識をすりあわせ、手戻りの少ないシステム構築事例を増やしていきたい」(NTTデータ 技術開発本部 副本部長 木谷強氏)とする。
非機能要求グレード検討会は、NTTデータ、富士通、NEC、日立製作所、三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)、沖電気(OKI)という日本を代表する大手SI事業者6社が集まり、2008年4月に発足、システム発注者側と受注者側で仕様を詰める際、双方で誤解が生じやすい非機能要求にターゲットを絞り、システム基盤に関する要求を6つに分類、グレードおよび項目洗い出し作業を行ってきた。
6社は2009年5月にWebで第1版を公開、そこから得たユーザ企業の声やパブリックコメントを反映し、東京海上日動火災保険と東京ガスが保有するシステムを用いて適用評価を行った後、改訂を重ねて今回の完成版リリースとなった。今後、非機能要求グレードの著作権は独立行政法人 情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター(IPA SEC)に譲渡され、経済産業省の施策の一環として、IPA SECで普及/促進に向けた活動が開始される。なお、非機能要求グレードは、誰でも自由に使えるよう、Webサイトからスプレッドシート(Excel)の形で提供されている。改変/再配布も可能。
非機能要求とは…
ITシステム構築における発注者側の要望のうち、実現したい業務機能の要求(受発注情報に連動した在庫管理を行いたい、営業情報をシステム上で共有したい、など)を機能要求とするなら、「レスポンスは3秒以内にしたい」「システムダウンは3時間以内に復旧したい」「将来に備えて2倍の容量に拡張できるようにしたい」など、業務には直結せず、技術的要素が強い要求を非機能要求と定義できる。
非機能要求の問題点は、システムの実現方法に関係するため、下流工程まで進まないと具体化しにくいところにある。結果として、開発において手戻りが発生し、無駄なコストや時間が発生しやすい。また、要求仕様の段階での項目漏れ/抜けが起こりやすく、開発が進んでから責任の所在があいまいになることも多い。
これらの問題が生じる原因は、発注者と受注者の間で共通の認識をもてないことに依る部分が大きい。
非機能要求グレードとは…
そこで非機能要求グレード検討会の6社は、「ユーザ視点から要求の実現レベルを見える化するため、段階的に詳細化しながら"早期に" "誤解なく" "漏らさずに"確認できるようにする」ことを掲げ、非機能要求グレードを定義、以下のようなステップを示している。
- 情報システムのモデルを「社会的影響がほとんどないシステム」「社会的影響が限定されるシステム」「社会的影響が極めて大きいシステム」の3つに分類
- 92項目から成る重要項目(コストに関わる項目)を定めたグレード表を用いて、モデルシステムごとに事前に要求レベルの値(0 - 5)を例示
- 開発を開始するまでに必要な要求項目236項目から成る項目表を用いて、網羅的な項目と選択肢を提示
非機能要求グレードの今後
2009年5月に第1版を公開後、パブリックコメントなどを反映し、よりユーザ視点に立った成果物となった非機能要求グレードを、発注者企業2社(東京海上日動火災保険と東京ガス)のシステムを利用して実践評価を2009年8月 - 10月にかけて実施した。結果、非機能要求グレードを用いることで、大幅に開発効率が高まることが実証された(活動報告書はこちら)。
ユーザ企業での実践評価を行った結果、社内にあらかじめ共通インフラ基盤や社内規則などのレベルが決まっている場合は、項目一覧を用いて設定を決め、段階的に要求を確認することで、非機能要求グレードがさらに効果的に活用できることが判明した |
今後、非機能要求グレードはIPA SECに著作権が譲渡され、普及/促進に向けた活動が行われていく予定。また、検討会メンバーの6社においては、それぞれの開発標準に非機能要求グレードを取り込み、社内利用および顧客への提案に活用していくという。「社内標準への取り込みはもちろんだが、業種/業界向けのカスタマイズや教育コンテンツ化、RFPへの系サインなども進めていきたい」(木谷氏)
同検討会が目指したのは、あいまいな言葉で語られることが多かった非機能要求を"見える化"および"標準化"することで、発注者と受注者のコミュニケーションを円滑にし、堅牢で安全性が高いシステム構築事例を増やし、高度な情報社会基盤を支えることにある。また、システムのモデルをレベル分けすることで「信頼性と経済性(コスト)のトレードオフを考える上で非常に有効」(IPA SEC 所長 松田晃一氏)となる。IT業界だけでなく社会的にも非常に意義が高く、IPA SECに移管後もさらなる普及と発展が望まれる。