2004年に刊行されたロングセラー本『SEライフ〈Vol.1〉SEが28歳までに身につける28の力』が、このたび『SEが28歳までに身につける28の力【第二版】』とさらに読みやすくなった新装版として発売された。

すでに絶版となった『SEライフ〈Vol.1〉』が新装版となってよみがえったのが本書。時間が経過しても古くならない内容だからこそ!

本書は次の章立で構成されている。

Chapter 1 交渉力

1 守る力 / 2 伝える力 / 3 聞く力 / 4 話す力 / 5 書く力

Chapter 2 管理力

6 終える力 / 7 10分の力 / 8 残す力 / 9 分ける力 / 10 使われる力

Chapter 3 実務力

11 根底を成す力 / 12 創り上げる力 / 13 くみ取る力 / 14 乗り切る力 / 15 納得させる力 / 16 立場を作る力 / 17 選ぶ力

Chapter 4 勉強力

18 考える力 / 19 調べる力 / 20 覚える力 / 21 英語の力

Chapter 5 自己力

22 自己分析の力 / 23 目標設定の力 / 24 ライセンスの力 / 25 辞める力 /26 保つ力

Chapter 6 生活力

27 ストレスとつきあう力 / 28 家庭で生きる力

タイトルこそSE向けかと思ってしまう本書だが、どんなビジネスシーンでも心がけたい内容が詰まった1冊となっている。筆者が感じた本書の簡単な全体象は次のとおり。

  • Chapter 1 - 2で他人と一緒に仕事をするための地盤を(おさらいも含めて)固め
  • これらをベースに今一歩進んだSEになるための力をChapter 3 - 4で押さえ
  • 自身をレベルアップさせつつ、健康な身体で仕事・生活を続ける上で身につけるべき力をChapter 5 - 6で知る

とくにChapter 1<交渉力>とChapter 2<管理力>で紹介されている10個の力は本書全体で紹介されているすべての力のベースとなっていると言ってもいいだろう。SEという業種にかぎらず、相手の立場を考え、他人と一緒に仕事をする上でかならず心がけておきたいものばかりだ。

どのような仕事でもサービスを提供する側と受ける側がある以上、かならず人間同士のコミュニケーションが存在する。相手にも感情はあり、自分が思っているだけで口にしないことは相手には伝わらない。他人と一緒に仕事をする中で基礎中の基礎ともいうべき"報告"に焦点をあてた「伝える力」。うなづく/笑う反応からはじまり"「開いた問い」と「閉じた問い」"といった質問の技術をまとめた「聞く力」。相手の気持ちを考えながら守り/伝え/聞き/話し/書く<交渉力>。

たった一言添えるだけで、聞き手の印象はガラリと変わる。この一言がどんな場面でもとっさに出るかどうか - P.57 「4 話す力」の"NOと言わない"より

相手のことを考える<交渉力>に対し、<管理力>ではおもに自分自身に対する力に焦点が当てられている。10分のスキマ時間からまとまった時間を生み出す「10分の力」、家に帰るまでが遠足=議事録を書くまでが打ち合わせ「残す力」。頭の中ではわかってはいるけれど、ちゃんと意識して実践できているか?これらをうまくまとめた<管理力>。

10分のスキマ時間を活用して、まとまった時間を生み出す - P.92 「7 10分の力」の"10分間はこんなに使える!"より

筆者がChapter 1 - 2の中で一番衝撃を受けたのは<管理力>の「終える力」。

もっと重要なこと、それは、「手を抜くところを知っている」ということです。手を抜くところを知っているとは、つまりやらなくてもよいことはやらないということです。こんな風に言うと、手抜き工事プロジェクトなんじゃないかと誤解されそうなので、もう少し詳しく言いますと、「重要な仕事に渾身の力を込めるために、手を抜いてもよい仕事はサッとこなす」ということです。

(P.75 - 76 Chapter 2 管理力 「6 終える力」より一部を引用)

幸運なことに筆者は本書を読む何年か前に、周りの環境がきっかけでこのことに気づけていた。しかし本書を読み、振り返ってみるとここ最近は意識しながら実践することができていなかった。このように<交渉力>と<管理力>では読んでいてハッとさせられることが多い。新人研修時代に出てくるような内容もあるが、あなたは頭をかくことなくこれらを読むことができるだろうか。

中盤にさしかかると内容もステップアップしSE専門色がでてくる。<実務力>では「根底を成す力」が中心となり、アルゴリズムやIR情報などSEやプログラマが焦点を当てるべき根底の知識を。<勉強力>では"具体的な知識"と"抽象的な知識"と分けた上で、これらを効率的に得る具体的な方法とヒントが紹介されている。

現在では言語や製品ひとつをとっても、じつに多くの選択肢がある。さまざまな新言語や新製品が今日もどこがで登場し、誰も使わなくなってしまったものが廃れていく。時代の流行を読み誤り、勉強・努力の方向先を間違えれば限られた時間を無駄にしかねない。ニュースの押さえ方や流行に翻弄されないための知識/方法をここでしっかり押さえておきたいところだ。

このほか「創り上げる力」「くみ取る力」「乗り切る力」「納得させる力」「立場を作る力」「選ぶ力」「考える力」「調べる力」「覚える力」「英語の力」が登場する。内容こそSE・プログラマという業種に特化した内容だが、筆者は前述のとおり、これらはChapter 1 - 2の「1 守る力」から「10 使われる力」がベースになっていると感じた。たとえば

  • 「伝える力」+「書く力」+「聞く力」 = 「創り上げる力」のドキュメンテーション能力
  • <管理力>をベースにSE向けにステップアップ: 「乗り切る力」
  • <交渉力>をベースにSE向けにステップアップ: 「納得させる力」
  • 「10分の力」の方法の1つとして: 「調べる力」のコラム"ブログ、ニュースは、RSSリーダーとソーシャルブックマークで"

などなど。基礎があってこその応用は、SE・プログラマに限らずどの業種/分野でも同じ。前半と行ったり来たりしつつ、地盤が固まるまで繰り返し読みたい部分だ。

そして後半ではすこしSE色が抜け、「自己分析の力」から「辞める力」(!)や「ストレスとつきあう力」といった、どの業界に属していても考えることになる内容 - <自己力>と<生活力>になる。キャリアプランやライセンスについてはSE色が強い内容だが、ほとんどが読み手の業種にそのまま置きかえて考えることができるようになっている。

SE/プログラマなら1度は見たことがあるであろう資格の名前がズラリ。この表自体はIT業界に特化したものだが、資格そのものに対する姿勢は他業種でも当てはめることができる - P.234-235 「24 ライセンスの力」の"資格をキャリアに生かす"より

1日に与えられる時間はみな同じ。かぎられた時間のなかで、仕事/将来のための勉強をしながら、どう気を張らずに日々の生活をしていくか。なかなかすぐには実践がむずかしい内容だが、まずは自分の背丈にあったできるところからはじめていきたいところだ。筆者がこれらの力の中で、比較的すぐに実践しやすい/考え方に影響を受けた、と思った箇所は次の3点。

  • 小さな目標をクリアしつつ大きな目標に近づいていこう (P.222 Chapter 5 自己力 「23 目標設定の力」より引用)
  • 自分で自分をほめてあげていい (P.254 Chapter 5 自己力 「26 保つ力」より引用)
  • 「ストレスはこの世からなくならない、ストレスを避けて通るわけにはいかない」と覚悟ができているならば、日々の仕事で溜まったストレスを定期的に発散・解消しながら、うまくつきあっていけることでしょう (P.262 Chapter 6 生活力 「27 ストレスとつきあう力」より一部を引用)

IT業界というと言語や製品の流行り廃りが激しく、つねにさまざまな方向にアンテナを張っている必要があり、自分がやりたいことも休む間もないと考えがちだ。選択肢が多いだけに方向はなかなか定まらず、自分がいま進んでいる道に不安を抱えることもあるだろう。しかし本書で触れられているのは、決して"力技で荒波に乗れ"ということではなく、いかに冷静に周りを見極め、確実な一歩を進めるかどうかというものだ。

本書のタイトルは「SEが28歳までに~」だが、業種や年齢に限らず、さまざまなヒントや発見があるはず。ぜひ一読をお勧めしたい。

SEが28歳までに身につける28の力 【第二版】

中尾真二 /今井孝/石川説明堂/伊藤直也/山内 美香/南方司 著
技術評論社 発行
2009年11月20日 発売
定価: 1,554円(本体 1,480円)
ISBN 978-4-7741-4067-4
出版社から: ムックとしては異例の5年にわたるロングセラーとなった『SEライフ』第1弾が,さらに読みやすい新装版として再登場。そろそろ若手ではなく,中堅としての活躍・貢献が期待される28歳。この年齢をいかに迎えるかが,その後のSE人生を大きく左右します。本書では,現場の第一線で活躍する執筆者たちが,28歳までにぜひ身につけておきたい力を28に分類して紹介。聞く力,10分の力,創り上げる力,納得させる力,考える力,覚える力,自己分析の力,ライセンスの力…。日々の仕事やこれからの人生の大きな力となるはずです。