既報のとおり、日立製作所は2月4日、同社代表執行役 執行役社長に現 執行役副社長を務める中西宏明氏が同日開催の取締役会で選出されたことを発表し、記者会見を行った。会見には現在、社長兼会長を務める川村隆氏も同席し、新体制における抱負などを語った。

日立製作所 社長兼会長 川村隆氏

川村氏は社長交代の理由について、「これまで3期連続で赤字が続き、世界恐慌の時と同じくらい業績が落ちた。そうしたなか、"出血"を食い止めるために、会長と社長を兼務することで、意思決定のスピードを速めた。しかし、今ようやく改革による一定の成果が出ており、出血は止まったと言える。そこで次に、行うべきは"攻め"だ。ここにきて、社長以上の立場の人間が出て行かなければならない場面が増えており、社長と会長が兼務していては機会損失を招いてしまう。そこで、会長と社長を分けることにした」と説明した。

「昨年は"攻めが40、守りが60"と言っていたが、今年は反転して"攻めが60、守りが40"としていきたい。先進医療、省エネ事業に重きを置いて、ビジネスを進めていきたい」

同氏は新社長となる中西氏については、「欧米での経営経験が豊富であるうえ、中東や中国でもビジネス経験があり、グローバルビジネスの基盤を有している。例えば、日立グローバルストレージテクノロジーズの建て直しを図ったほか、日立ヨーロッパの社長を務めていた時は、イギリスとの新幹線ビジネスをまとめた」と述べた。

日立製作所 執行役副社長 中西宏明氏

一方中西氏は、「今回の社長任命は、当社が成長するための改革を進めるための決定。当社の目標の1つである"グローバル企業への変容"を実現すべく、現在40%である海外での売上を50%、60%と拡大していきたい。当社の技術とサービスは世界で十分戦えるクオリティだと思う。これからは海外でのエンジニアリングを高めていかなければならない。それには、チーム作りが大切であり、現場で解決していく力をつける必要がある。具体的には、プロジェクトごとに最適なチームをグローバルで編成していくようにしたい」と、今後の抱負を語った。

記者からの「社長就任後、真っ先に手をつけたい業務は?」という問いに対しては、「社会イノベーション事業の中核となる電力・電機事業をグローバルに広げていきたい。今さらと思われるかもしれないが、最近、電力・電機事業は変わりつつある。これまでは技術や製品だけを販売すればよかったが、今は技術と製品にサービスやオペレーションを組み合わせて提供する必要がある」と答えた。

また、同社の強みとして、「社会インフラと情報通信を融合できること。これを実現できる企業はそうそうない」という説明がなされた。マーケットがまたこれを求めているのだという。

さらに、環境・エネルギー事業については、「新エネルギーが特に重要になってくる。気候など、新エネルギーの要素を賢くコントロールできれば、事業機会が増える。さらに、電池・エネルギー・水・空気など、幅広く展開していくことで、新たな事業の枠組みを構築していきたい」と、同氏は語った。

同氏の社長就任とともに、役員人事も発表が行われている。電池事業を擁する日立マクセルの代表取締役社長を務める角田義人氏が執行役に再任されたのも、日立本体が電池産業により注力していくという表れと言える。

ちなみに、同氏の信条は「好きこそものの上手なれ」だそうだ。最初は辛い仕事も一生懸命続けていくことで、面白くなってくるとのこと。同氏は入社直後から、コンピュータ制御をスタートさせるという博多までの新幹線延線プロジェクトに参加し、アーキテクチャの設計から開発まで行い、この仕事が同氏の出発点だという。「

大変なことも多かったが、技術に加え、4,500人のメンバーから成るチームをまとめるというマネジメントなど、さまざまなことを学んだ。この仕事が私が日立を愛している原点と言ってもよい」

ゼロからモノを作ることにこだわってきた"技術屋"出身らしい言葉のように思う。

「現場に近いところでリーダーシップを発揮することを大切にしたい」、「人を生かして技術を生かす。それが日立の最大の価値」と語る同氏。2009年度第3四半期で増益に持ち込み、上り調子になりつつある日立において、同氏がこれからどのような手腕を振るうのか期待したい。

笑顔で握手をする川村氏(左)と中西氏(右)