昨日の最速は明日の普通 - しかしOperaだけはシェアを失わない

今もっとも熱いブラウザはなにか - それはFirefoxでもChromeでもなく、Operaだといえる。Operaは2年間の沈黙を破って「ブラウザ最速」を叩きだした。Opera Softwareにとって遅いブラウザというものは「バグ」であり、当然修正すべきものとされている。10年前のPCで動かないブラウザもバグだ。

ブラウザは技術流動がひどく早い。昨日の最速は明日の普通になり、昨日の普通は明日の過去になる。この2年間、ブラウザリリースの視点から見るとOperaはパッとしなかった。鳴り物入りで登場したChromeは半年ごとに確実に高速化。自動アップデート機能も功を奏し、常に最新で最速だ。Firefoxですらその開発速度に遅れをとっているように映る。Operaはなおのことだ。PCでのブラウザとしては一線を退いた感すらあった。

Opera 10.5 pre-release on FreeBSD

しかし、Net Applicationsの報告するブラウザシェアは逆の事実を伝えている。技術流動とともにシェアが入れ替わるブラウザだが、Operaだけは確固たるシェアを失わない。むしろシェアは微増ながらも増え続けている。そこにはOperaからほかのブラウザには移れない魅力がある。

ブラウザのバックエンド、OSS、シェア、クロスプラットフォーム比較

Operaとほかのブラウザは何が違うのだろうか、まずは主要ブラウザの開発企業や支援団体、OSSとの関係、クロスプラットフォーム性などを比較してみたい。最大シェアを誇るIEはMicrosoftによって開発されている。従来どおりの企業内開発であり、OSの支配的な立場も影響してシェアは最大。ただし、シェアは大きく下落し続けている。企業ユースも対象とするMicrosoftは、そう頻繁に新しいバージョンをリリースできない状況にある。このため仕方のないことだが、開発競争が過激ななかでIEの進歩は遅く、そして動作も遅い。同様のポリシーを続ける限り、シェアは今後も低下し続けるだろう。

IE Firefox Chrome Safari Opera
バックエンド Microsoft Mozilla Google Apple Opera Software
OSS ×
シェア 62.69% 24.61% 4.63% 4.46% 2.93%
シェア推移 -6.54% +2.03% +3.09% +0.99% +0.51%
クロスプラットフォーム × ○-

対称的なのはすべてをOSSで開発するFirefoxだ。ユーザも多く、バージョン別に見るとIEに匹敵するところまでシェアを増やしている。今後も成長を続けるだろう。企業内開発とOSSのハイブリッドがChromeとSafariだ。双方ともOSSのWebKitをレンダリングエンジンに採用し、ほかのOSSプロダクトを組み合わせて自社のブラウザを開発している。特に後発のChromeは優れた設計と戦略に基づいて急激にシェアを伸ばしている。

IEにもっとも近いのがOperaだ。Firefox、Chrome、Safariと違って企業内開発。Microsoftとの違いはバックエンドにWindowsという支配的なOSという基盤を持たないということだ。このためシェアは低い。かわりにモバイルデバイスや家電、組み込みで広いシェアを持つ。加えてほかのブラウザにはない幅広いクロスプラットフォーム性がある。ブラウザ開発に特化しているという点もMicrosoftとは異なる。

個性強いOpera開発者を満足させるほどの高いカスタマイズ性

どのブラウザも標準規約への準拠をもっとも注力すべき事柄のひとつにあげている。レンダリングやWebアプリケーションの動作はどのブラウザでも同じになりつつあるし、また、そうあるべきだというのが体勢の見方だ。そうなるとブラウザとしての差別化が難しくなるのではないかと考えてしまう。たしかに、相互に影響を受けて機能の面でもUIの面でも、IE、Firefox、Chrome、Safari、Operaはますます似てきている。しかしそれでも、それぞれのブラウザは自分らしさを失わない。自分らしさというのは主要ブラウザとして君臨するひとつの鍵なのだろう。

Operaの最大のポイントはカスタマイズ性の高さにある。Operaが個性的なら、バックエンドであるOpera Softwareも、そこで働く開発者も個性的だ。Operaを開発する500人のデベロッパが単一のブラウザ仕様で満足するかといえば、答えはノーだ。多国籍多言語、違うタイムゾーンに違う文化、単一のブラウザで満足するわけがない。このため、自分のOperaに満足できるようにそれ相応の「選択肢」が提供されているカスタマイズ性をなるべく排除してもっとも優れた状態の単一ブラウザの提供を目指すChromeや、それに近いSafariとは真逆だ。

高いカスタマイズ性を持つOpera - 我の強い500人のエンジニアが満足できるほどの選択肢を提供

高いカスタマイズ性はFirefoxも同様だが、FirefoxとOperaには決定的な違いがある。Firefoxが提供するカスタマイズ性は、多くの場合アドオンがもたらしてくれる。2万を超えるエクステンションやテーマはFirefoxを自分の求めるツールに変身させてくれる。使い込めば使い込むほど、Firefoxで使うエクステンションは増える。Operaも同様の機能を提供しているが、Operaはそうした求める機能の多くが最初からOperaそのものに内包されている。

Firefoxエクステンションが便利であることはどの開発者もユーザも認めるところだ。しかし、便利だからといって数百のアドオンを追加して利用したいとは思わない。重くなるからだ。Operaにはそれがない。マウスジェスチャーも最初から同梱されているし、その他の機能もそうだ。言語や地域に特化したカスタムパッケージが開発しやすいところや、ほかのユーザが作成したカスタムパッケージが利用できるところもポイントとなっている。

サクサク感、細い通信帯域での使いやすさ、モバイルからの技術転用

今度は細かいポイントから、Operaの特徴をまとめてみたい。まず、Operaのサクサクとした操作感と低速回線での高速性だ。Operaのキャッシュの使いまわしのうまさには定評がある。とくにこれは通信帯域が細い場合に、ストレスなくブラウジングできるという結果になってでてくる。従量制課金なら費用という形で効いてくる。古いPCで軽く動くところもポイントだ。Opera Turboといったサービスも回線が細い場合には心強い。

日本はブロードバンドの普及率が高く、通信帯域も広い。このため職場や自宅でネットサーフィンする場合には効果を感じることが少ないかもしれないが、出先などでモバイル端末を経由してインターネットにアクセスするといった場合には、Operaの快適さを実感できる。

Opera Turboを有効にした状態のOpera - 圧縮サーバがローカルにある欧州では特に高い効果が得られる

クロスプラットフォーム性の高さも魅力だ。OperaはWindows、Mac OS X、Linux以外にもFreeBSDとSolarisに対応。PC以外のデバイスでも動作し、サポートするプロセッサもx86、x64以外にARMやMIPSなど。そのほとんどでOperaの技術が動作する。モバイル、家電、PC、そのプラットフォームは多種多様だ。

PCでの移植性の高さならFirefoxが群を抜くが、それ以外のデバイスまで幅を広げるとOperaにかなうブラウザはない。IEとSafariは基本的に自社のOSと支配的なOS向けにリリースしているのみ、ChromeはやっとWindows以外にMac OS XとLinuxが動き出したという段階だ。そしてこうしたクロスプラットフォームで培われた経験と技術、実装が、次のOperaに確実に反映されている。また、JavaScriptのJIT実装は難しい分野だが、Operaではクロスプラットフォームを実現しつつ、JITも実現した。Operaならではの偉業といえる。

Operaならなにかやってくれる、ドラスティックな魅力と凄み

さまざまな特徴があるOperaだが、ほかのブラウザが何もしていないわけではない。リリース間隔を長くとらざるを得ず、最大のユーザベースを持つがゆえの制約があるIEは除外するとしても、Firefox、Chrome、Safariの開発速度は高速で魅力的な部分も多い。しかし、OperaユーザはOperaへの興味が強くほかのブラウザへの感心が薄い。FirefoxやChromeがお互いに高い関心を持っているのと比べると対称的だ。

そこには、こだわりを持ちつづけるOpera Softwareへの「こだわり」がある。Operaは常に最新の技術を投入してきた。そして今回も2年間という沈黙のあと、いきなりのブラウザ最速化だ。今は実行速度で引けをとっていても、Operaならいつか化けると信じてきたユーザにとって我が意を得たりといった状況だ。そして、幹部のこの発言という魅力がある。

  • 遅いのはバグだから、直せ
  • この古いPCで動作しないなら、それはバグであり、直すべきもの
  • OperaはPCで最速でなければならないというのはOperaの真骨頂

Operaなら、次はまたなにかやってくれる、そう思わせる凄みがこのブラウザにはある。だからこそ、いったんOperaを離れてほかのブラウザを使い出しても、馴染みの設定とリリースごとのワクワク感を求めてまたOperaに戻って来てしまう。これがOperaのユーザが減らない最大のポイントであり魅力といえる。