日本はいまだ不況のトンネルを抜け切れず、産業全体において景気低迷が続いているのは言うまでもない。しかし世界に目を移すと、アジアを中心とした新興国の成長は目覚ましい。アクセンチュアは1月28日、「大転換期のグローバル戦略」というテーマの下、これから日本企業が世界を相手に成長していくために何が必要かについて説明を行った。
執行役員兼経営コンサルティング本部統括本部長兼戦略グループ アジア・パシフィック統括 マネイジング・ディレクターを務める西村裕二氏は初めに、「日本企業は世界の企業に比べて、成長力と収益力で見劣りする。現在、非常にまずい状態であり、崖っぷちにいると言える」と、日本企業の状況を説明した。
一方、世界に広げて見ると、「多極化」と「グリーン化」を軸に経済は大きく転換を遂げつつあり、そうしたなかで、市場拡大と競争が激化しているという。「地球規模で新たな市場ができつつあり、新興国では循環型の社会インフラ市場が出現している」
また、日本は環境に関する技術力にすぐれていると言われているが、韓国・中国といった新興勢力が圧倒的なコスト競争力とスピードを武器に猛烈な追い上げを図っている。
同氏はこうした状況の下、日本企業が世界市場を勝ち抜くには、「グローバルオペレーティングモデルへの転換」と「グリーンを軸にした事業展開」に着手する必要があると説明した。
グローバル経営力をつけて成長を遂げたコマツ
日本企業はグローバルオペレーティングモデルに転換することで、コスト・スピード・成長力を強化されることになるという。
同社では、「市場創造展開力」「ものづくり力」「M&A力」「グローバルオペレーション力」「経営管理力」を、グローバルオペレーティングモデルを強化する力と位置づけている。実際に、グローバルオペレーティングモデルへの転換を果たした企業として、小松製作所(以下、コマツ)が紹介された。
コマツは競合であるキャピタルを徹底的に研究し、一般管理費に7.4%の差があることを突き止めた。同社はその後、経営構造改革として、「間接業務のリーン化」、「ノンコア事業再編」、「基幹業務の標準化」に取り組み、2006年にはキャピタルを営業利益率で抜いた。例えば、業務の標準化は業務のスピード向上を実現し、中国市場におけるシェア拡大の原動力となった。
同氏はコマツの取り組みのうち、特に注目すべき点として、「幹部候補生を30代のうちから、海外に向けてアサインしたこと」と「関連会社300社を220社に整理したこと」を挙げた。
スマートシティに投資する海外のIT企業
グリーンを軸にした事業展開では、エネルギーインフラ「スマートグリッド」を用いて都市レベルで低炭素化を推進する「スマートシティ」の取り組みに注目し、グリーン事業を単体技術ではなく、システム売り/構築やサービスを提供することを目指していくべきだという。
「スマートシティの推進によって地球の価値が上がることが、投資に妥当性を持たせる」と同氏。スマートシティにおいて不動産価格が上がることで、投資が誘発されることになる」と同氏。
現在、米国・韓国・中国など、さまざまな国でスマートシティへの取り組みが進んでおり、民間企業や政府が積極的に投資している。
例えば韓国では、仁川市で「U-cityプロジェクト」というプロジェクトが始まっており、約4兆円が投資されている。同プロジェクトは、ユビキタスなテクノロジーと環境都市計画を組み合わせて、サスティナブルな都市モデルを構築することを目指している。シスコシステムズも同プロジェクトに投資を決定しており、R&DセンターをU-cityに建設する予定だ。
シスコのほか、インテル・Google・GEなども、スマートシティへの投資を行っている。
同氏は日本の強みについてこう語った。「原子力は日本の強みであり、これからも高い技術力を維持していかなければならない。総合商社の業態、大規模なプロジェクト管理を含むエンジニアリングも日本の宝と言える。また、海外では都市は点と見なされて開発が行われるが、東京は面として開発が行われており、これは日本の都市開発力の賜物。一般に、日本は要素技術に長けていると言われるが、ソフト資産も豊富だ」
同じアジア諸国である韓国や中国では、産業をオリンピックのように位置づけ、政府が有力な産業について企業を選んでサポートを行っているという。日本政府にもこうした動きを期待したいところである。