「物凄い低予算で制作され、莫大な興行収入を稼いだ凄いホラー映画がある」そんな噂ばかりが先行していた『パラノーマル・アクティビティ』が、ついに日本公開される。全編をデジタルビデオカメラで撮影。物語の舞台となるのは、様々な超常現象の起こる屋内のみ。出演者は、主役のカップルのみ(ほんの少しだけ友人などサブキャラも登場)。総制作費はたったの1万5,000ドル(日本円で約135万円)。こんな状況で制作された映画が、あのドリームワークスの目に留まりリメイク化が決まるも、御大スピルバーグの「これ以上の映画は作れない」という賛辞により、そのまま公開。口コミで大ヒットして、1億ドル(日本円で約90億円)以上もの興行収入を稼ぎ出したという。そんな話題のホラー映画『パラノーマル・アクティビティ』のオーレン・ペリ監督に話を訊いた。
良いアイディアがあれば、自分で撮ればいい
――今回、超低予算で制作された『パラノーマル・アクティビティ』が、大ヒットして世界中で公開されることなりました。この一連の流れに関して、監督はどういった感想をお持ちですか?
オーレン・ペリ監督(以下、ペリ監督)「ファンタスティック!」(※このひと言だけで、しばし沈黙する監督)
――「とても素晴らしい!」ということですね。それでは、今回の作品で監督が用いた手法に関してお伺いします。手持ちのホームビデオによる撮影、ファイクドキュメント的な構成、内容の詳細情報を明かさないという作品の露出の方法など、『パラノーマル・アクティビティ』には同じホラー映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』との共通点が多く観られます。またホームビデオによる主観映像(POV)で全編構成されているという部分は、『クローバーフィールド』や『REC』といった作品とも共通しています。これらの作品から影響を受けた部分はあるのでしょうか?
ペリ監督「『クローバーフィールド』や『REC』の公開より前に、すでにこの作品の撮影は終わっていたので、それらの作品から影響は受けていません! 『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』に関しては影響も受けていますし、インスピレーションも受けています。ただ、それは作品の内容という部分ではありません。どういう部分かというと、実際にあの作品は若い何人かの映画監督志望の人たちが非常に少ない制作費で完成させています。コネクションや監督経験もない中で、非常に商業的な成功を収めました。そういう部分にインスピレーションを受けました」
――「あのように成功できる」と考えたクリエイター志望の人は、確かに多いと思います。ペリ監督は、『パラノーマル・アクティビティ』制作前はゲームクリエイターだったそうですが、以前から映画を撮りたいという願望はあったのですか。
ペリ監督「自分の中で、長い間ファンタジーでした。このファンタジーというのは、夢という事です。夢みたいな形で空想することはあっても、監督になる道を歩むつもりはなかったんです。こういう機会に恵まれるとも思っていなかったですし……。そもそも、映画監督になるには映画学校に通ったり、経験を積んだりと、長いプロセスが必要であって、それがあっても監督になれる人は非常に少ないわけです。それで諦めていた部分もあったのですが、『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を観て、"自分もいいアイディアさえあれば、自分でカメラを回して撮ってしまえばいいんだ。そうすれば、いわゆる映画業界に身をおいてなくても、映画を作ることができるんだ"ということに気づきました。そこで、自分の中にあったアイディアで、実際に作品を作ったのです」
『パラノーマル・アクティビティ』予告編
――こういったフェイクドキュメントでは、映像のリアリティこそが命だと思うのですが、撮影や映像編集では、どんな部分に注意したのですか?
ペリ監督「すべてです。ひとつのパッケージとして、この映画のすべての面が自分にとっては、大切だったのです。まずはキャスト。作品の全体をふたりのキャストで背負わなくてはいけないので、リアルな演技力を含めてそれだけのキャストをキャスティングできるかどうか、ストーリー、視覚的にどういうビジュアルにするのか、音の使い方、ペース配分など、すべてが大切でしたし、すべてに注意を払いました」
――この映画は完全にワンアイデアの作品です。監督はどこからアイデアを得たのでしょうか?
ペリ監督「私は1本しか映画を撮っていないので、この作品のアイディアに関してしか答えられませんが、今回の場合は『室内から何か物音がしていて、それを幽霊だと疑った人が、それをどう証明するのだろうか?』ということからアイデアを得たんです。それを考えたときに、『やっぱり幽霊の存在を証明するために、ビデオカメラを回すだろう』というところから発展していきました。そこから物語の大枠の流れを描き始めたというのがスタートでした」
――幽霊の存在証明にも、良いアイデアの証明にも、とにかくビデオカメラを回すことが大切ですね。ところで、監督はどんなホラー映画が好きなんですか?
ペリ監督「『エクソシスト』、『ローズマリーの赤ちゃん』、『シックスセンス』、『アザーズ』、『たたり』(※原題『THE HAUNTING』1963年公開のオリジナル版)などですね」
――監督が好きな作品には、王道ホラーとワンアイデアの変化球ホラーが混在していますね。『エクソシスト』や『アザーズ』の影響もこの映画にはあるような気もしますが、Jホラーからの大きな影響も感じました。日本人は怖いホラー映画には慣れているわけですが、監督は日本の観客にこの作品をどう楽しんでもらいたいですか?
ペリ監督「とにかく、楽しんでほしい、怖がってほしいというのはありますね。日本はホラー映画だからといって軽く見ないということを知っているので、もし日本の観客に楽しんでもらえたら、自分としては非常に嬉しいですし、凄く報われた気がします」
――ワンアイデアの作品で大きく評価されたわけですが、今後はどういう作品を作っていきたいのでしょうか?
ペリ監督「スタイルにしろ、ジャンルにしろ、自分のことを限定したくはないと思っています。次回作に関しては完成するまで、語らないと決めています」
――具体的な話でなくてもかまわないのですが……。
ペリ監督「次回作の話はいっさいできません……」(※ペリ監督の次回作は『Area51』。タイトルからすると200パーセント宇宙人モノ。なお制作費は500万ドルで日本円にすると約4億5,000万円)
――これからペリ監督のように、資金が少なくてもアイデア勝負で映像作品を作りたいと思っている人にひと言アドバイスをお願いします。
ペリ監督「なによりもその物語にピッタリのキャスティングをすること、いい俳優をキャスティングをすることがもっとも重要だということを伝えたいですね。また、それはお金はかからないかもしれないけども、時間のかかる作業なんです。これが企画の成功を握る秘訣だと思います。あとはいい映画向きのアイディアが浮かんだら、とにかく作ってしまえばいいと思います」
「アイデアがあれば、とにかく作れ」と語ってくれたペリ監督。『パラノーマル・アクティビティ』の成功、これは新たな才能による必然なのか、それとも単なるビギナーズラックか? 広告代理店的な周到な仕掛けによる計算された結果? そもそも作品は本当に「怖い」のか? 本当に「面白い」のか? その答えはあなた自身がその目で確かめて欲しい。余談だが、高校生はだれでも1,000円で鑑賞可能!
ケイティとミカは、自宅で起こる奇妙な現象に悩まされていた。ミカはその正体を探るために、ビデオカメラで記録を始めるのだが……。『パラノーマル・アクティビティ』は1月30日よりシネマサンシャイン池袋、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー |
(c)2009 Oren Peli d.b.a Solana Films.
撮影:石井健