三菱電機は1月20日、SiCダイオードを活用したパワーモジュールを開発、これを用いたインバータで鉄道車両用モーターの300kW駆動を実現したことを発表した。
これまでも同社はSiCを用いたデバイスを開発してきており、MOSFET+SBD(ショットキーバリアダイオード)の構成で、従来のSiでの構成に比べ、2007年度で50%、2008年度で同70%、2009年度で90%の電力損失の低減を実現していた。
こうした取り組みについて、同社先端技術総合研究所 パワーエレクトロニクスシステム開発センター長で、電機システム技術部長の小山健一氏は、「これまでの発表はいかに損失を低gんできるかの発表。今回の発表はSiCをダイオードに用いて、どこまで大容量化できるかの実証実験の意味がある」と語る。
同社のSiCパワーデバイス開発のポイントは2つ。1つはデバイス性能(低損失性)を最大限に活用するための技術開発。もう1つは、家電から鉄道車両までの広範囲な分野における小電力の制御から大電力まで性能と信頼性を確保すること、だという。
そのため、同社では半導体のチップから開発を行い、モジュール化、パワーエレクトロニクス機器、そしてシステムまでの開発を一貫して行っており、「これにより、製品開発に必要なチップ、モジュールをタイムリーに供給することが可能となる」とするほか、「機器・システム間で要求される機能や性能、コスト、信頼性などをチップに反映させることが可能」とその相互活用のメリットを説明する。
今回開発されたパワーモジュールは、トランジスタ部に同社独自技術のCSTBT(Carrier stored Trench Gate Bipolar Transistor)を8個並列接続(定格150A/1700V)し、ダイオード部に定格75A/1700VのSiC-SBDを16個並列接続して構成している。
同モジュールの電力損失は、ダイオード部の通電損失が1200A(定格)でSi比で2%減(600Aでは同14%減)となったほか、スイッチング損失は1200Aで95%以上の低減を実現したという(600Aでも同等程度の低減)。また、トランジスタ部分の損失も、ターンオフ損失が1200Aで55%、600Aで70%低減することに成功している。
このモジュールでインバータを構成、鉄道用モーターを駆動させたところ、300kWでも低速から高速まで問題なく動作することを確認したという。なお、300kW駆動はSiCインバータにおける世界最大級の出力になるという。
また、750V直流架線の都市部通勤路線(駅間移動)を想定したランカーブ損失のシミュレーションも実施。結果として、損失低減が最大となる低速回生時の損失でSi比で28%、全運転条件でも同18%の低減が可能という結果となった。
なお、同社ではトランジスタ側の最適化やSiC化などの工夫によりさらなる損失低減が図れるとみているほか、早期の実用化に向けて今後は信頼性の確認作業などを進めていくとしている。