フィンランドNokiaは9月、スマートフォンで大きな戦略変更を行った。これまでスマートフォンでは、ビジネス向け「Eseries」でもマルチメディアの「Nseries」でも、「S60」と「Symbian OS」のみを採用してきた同社だが、9月に発表した最新機種「Nokia N900」は、同社が開発したLinuxベースのモバイル向けOS「Maemo」を初めて携帯電話で採用したのだ。

Pekka Kosonen氏

Nokiaが傘下に持つクロスプラットフォームのUI/アプリケーション開発フレームワークのQtが2008年10月、ドイツ・ミュンヘンで開催した「Qt Developer Days 2009」では、Forum Nokia技術開発トップのPekka Kosonen氏がMaemo向け開発について今後の計画を語った。モバイルアプリケーション市場が急速に拡大しつつある中、SymbianとMaemoを持つNokiaにとって、Qtは戦略的なツールとなりそうだ。

Maemoは当初、Nokiaが2005年に投入したインターネットタブレット「Nokia N700」で最初に登場したLinuxベースのプラットフォームだ。このシリーズは、無線方式はWi-Fiに対応、セルラー機能がなく、ギーク向けの端末というポジショニングだった。たとえばMozillaはモバイル向けブラウザ「Fennec」で、Maemoを最初にターゲットとした。Nokiaは今後そのMaemoに、スマートフォンの将来を一部託す。

「N900は3Gに対応した。これにより、Maemo搭載機をメインストリームのスマートフォンにする」とKosonen氏は言う。「Maemoに注目する価値はある」とKosonen氏は述べ、集まった開発者にアピールした。

Maemo.orgは現在、約2万1,000人が登録しており、900ものプロジェクトをホスティングしている。そのうち9割がオープンソースとのことだ。

Maemo搭載機は、インストールベースという点では少ないが、NokiaはすでにMaemo向けアプリケーションの開発を積極的に推進している。Kosonen氏はこの日、「NokiaはMaemoを、S60に競合するレベルにするつもりだ」と述べ、開発リソースを注ぐ計画であるとした。一方、Symbian搭載機のインストールベースは1億台といわれている。「MaemoとSymbianの両方にアプリケーションに開発するメリットは大きい」とKosonen氏は胸を張る。

MaemoとSymbianの2本柱を進めるにあたり、Nokiaは両方でモバイルアプリケーションを活性化させる。ここで切り札となるのが、2008年に買収したノルウェーTrolltechのクロスプラットフォームUIアプリケーション開発ツール「Qt」だ。

QtとWebRuntimeにより、Symbian、Maemoだけでなく、エントリ向け「S40」やデスクトップもカバーする

Qtでは現在、モバイル向けAPIプロジェクト「Mobility API」が進んでおり、「このプロジェクトが完成すれば、ネイティブコードの知識なしに、フル機能を持つモバイルアプリケーションを開発できる」とKosonen氏は述べる。

Nokiaは10月前半、「Maemo Summit」を開発している。ここでは開発関連として、

  1. QtのMaemo向けポーティング(Maemo 5)
  2. 次期版「Maemo 6」にWebランタイムを搭載

の2つの計画が発表されている。「この2つにより、Symbian(すでにQtポーティングを実現している)とMaemoのクロスプラットフォーム開発が可能になる」(Kosonen氏)

Qtを利用するメリットについて、Kosonen氏は「生産性」という。Qtは現在、X11/Linuxに対応しており、Maemo向けにアプリケーションを開発できる。だがMaemoのUIである「Hildon」の統合はなく、Qt for Maemoのポーティングプロジェクトで作業が進んでいるとのことだ。このほか、コアサブシステムでは「X Window System」やOpenGL ESドライバの統合も進めているという。なお、最新のHildonはタッチに対応、指によるスクロールなど容易なナビゲーションを実現するが、APIの変更はなく、開発者側は大きな変更はないという。

Hildon UI。タッチ入力に最適化された「HildonAppMenu」

マルチメディアサブシステムやリアルタイムコミュニケーションなどの部分を担うMobility APIは、コンタクトAPI、ロケーションAPI、システム情報API、メッセージングAPIなどが含まれる。2009年内にリリース予定という。

QtとMaemoの統合

実際の開発環境となる「Maemo SDK」は、x86のLinuxデスクトップでMaemo端末のエミュレータ代わりになる「Scratchbox」機能を特徴とする。Mac OS X、Windows上ではVMware仮想マシンとしてインストールされ、仮想的に動くLinux PCの中でサンドボックス化されたクロスコンパイル開発環境であるScratchboxを動かすことになる。このMaemo SDKも将来、QtのIDEである「Qt Creator」と統合される計画という。

Maemoのアーキテクチャ

開発したアプリケーションは、Nokiaのアプリケーションマーケット「Ovi Store」で提供できる。Ovi StoreはN900をはじめ、多くのNokia端末に統合されており、「インストールベースが増えれば、Ovi Storeとの相乗効果で起爆する」というシナリオだ。また、NokiaはOviブランドで音楽、SNS、地図/ナビゲーションなどのサービスを提供しており、将来的にOviサービスのAPIを公開する計画だ。

これだけでなく、450万人の会員数を誇る開発者コミュニティのForum Nokiaでは個人や企業などさまざまな状況で開発を支援する。技術、ビジネスなど支援は多岐にわたるが、中でもアプリケーションをどうやってチャネルにのせるか、プロモーションするかなどビジネスに関連したコンサルティングや支援は小規模企業や個人開発者にはメリットがありそうだ。

「革新的なアプリケーションはサードパーティより生まれる」とKosonen氏。「現在、Nokia向けアプリにはクールなアプリが少ない。クールなアプリをどんどん開発してほしい」と呼びかけた。