「5年後にIPOできる事業会社を1、2社作りたい。現段階で申し上げられる事業計画らしきものはそれだけ」- 通常なら、新会社設立会見の場で社長が言うセリフではないように聞こえる。だが1月14日、東京・六本木で行われたMetaMoji設立会見で代表取締役社長の浮川和宣氏は終始にこやかな表情で新事業への抱負を語り続けた。具体的な事業計画が何もない状態でも、「100年後に評価される技術を世に送り出したい」(同社代表取締役専務 浮川初子氏)という壮大な夢を語れるのは、この夫妻だからこそなのかもしれない。
ジャストシステムの創業者で、30年にわたり代表取締役社長の座にあった浮川和宣氏の辞任が発表されたのが2009年9月。そして翌10月には代表取締役会長の座も退き、共同創業者で妻の浮川初子氏とともに、みずからの手で育て上げたジャストシステムを離れた。それから2カ月後の12月、浮川夫妻はジャストシステムからいくつかの事業譲渡を受け、新たに新会社「MetaMoji(メタモジ)」を設立、新たなビジネスへと乗り出すことを発表した。
MetaMojiがジャストシステムから事業譲渡されたおもな技術は以下になる。
- XBRL(eXtensible Business Reporting Language)に関する技術
- アプリケーション開発、XBRL製品
- オントロジーに関する研究開発と基本オントロジー辞書およびアプリケーション開発
- 大阪大学産業科学研究所溝口教授との共同研究である機能オントロジーに関する研究と機能オントロジー構築システムの開発
- XMLサーバアプリケーション開発環境「PXL」の開発
「IT技術者だけでなく、一般ユーザがITで"したいこと(目的)"を簡単に実現できるようなアプリケーション開発環境を整えていきたい。ユーザがコンピュータでできることは文書作成だけではないはず」と浮川初子氏。一般ユーザがソフト開発に部分的にでもかかわれるようにすることで、ユーザの求めるレベルに限りなく近いアプリケーションを提供できるようにしたいとする。ベースとする技術はXMLで、当面はこれらの研究開発が事業の中心となる。
「コア技術開発はやってみないとビジネスにつながるかどうかわからない。そういった"たまご"の状態の技術のいくつかを"ひよこ"の状態までふ化させるのが、この会社の役割。ビジネスになりそうな技術があれば、パートナーなど他社と協業して事業会社を別に起こし、サービスインにもっていきたい」(浮川社長)とのこと。実際にどんなサービス/アプリケーションを予定しているかについては、「現段階では公開できるものはない。ただし私なりに決めていることが2つあって、ひとつはコンシューマをターゲットにすること、もうひとつはパッケージソフトはやらないということ」(同氏)という。MetaMoji本体は将来にわたって"研究開発企業"でありつづけ、サービス展開は別会社で行うスタイルで行くとしている。
現在、MetaMojiの従業員数は16名で、全員がジャストシステム出身。ほぼ全員が研究開発に従事する。なお、同社の株式は浮川夫妻が100%を所持しており、経営資金は二人の個人資産が支えている。
今後の事業計画や初年度売上目標などについては「(ビジネスモデルの)アイデアはたくさんあるが、具体的にお話できる材料や数値は何もない」(浮川氏)と、新事業開始会見としてはいささか異例ではあったが、「"あのとき、この技術があればどんなに良かっただろう"と後に評価されるような技術を世に送り出し、社会に貢献していきたい」(同氏)という抱負も、国内IT産業を牽引し、一時代を築いた浮川和宣・初子夫妻が語れば、けっしてただの夢物語に終わらない感を与える。だが「技術も経営も"オープン"を掲げてやっていく。企業理念にはずれることは絶対にやらない」という決意表明だけでは、さすがにユーザに訴求するのは苦しい。できるだけ早い時期に、同社が開発する"商品"の姿と具体的なビジネスプランを市場に提示することが求められるだろう。