米Appleの「App Store」で提供されているアプリの数が10万本を突破するなど、爆発的に伸びているモバイルアプリケーション市場だが、モバイルはPCと比べるとさまざまな点で異なる。モバイルアプリ開発の課題と注意点は何か。Symbian Foundationが10月に開催したイベント「Symbian Exposition&Exchange 2009」で、モバイルアプリの開発者やアプリマーケット運営者の声を拾ってみた。

どのプラットフォームに対応すべきか

モバイルに進出するといっても、さまざまなプラットフォームがある。PCなら「Windows」で90%のユーザーにリーチできるが、モバイルは最大手のSymbianで50%を上回る程度。さらには、これは世界ベースの数値であって、地域により優勢なプラットフォームは異なるというのが実情だ。

モバイルアプリケーションのあり方を一変させたiPhoneとApp Store

生産性アプリケーションを開発するKiller Mobile Softwareの設立者 Josh Alner氏は、現在まさにこの問題を体感しているようだ。これまでスマートフォンOSといえば「Symbian」と「Windows Mobile」ぐらいだったが、「iPhone」の登場で市場が大きく変わったという。いまでも同社の開発作業の80%がSymbian向けというが、「他のプラットフォームベースの端末に移行するユーザーも増えており、対応に困っている」と同氏。予算と時間に制約があるため、プラットフォームに優先順位をつけて対応していくしかない。

だが、予算の問題だけではないようだ。北米ベースでもあることから、iPhone対応を求める声は高いというが、「iPhoneはバックグラウンドでアプリを動かせないので、いまのところ選択肢にない」とAlner氏。このほかのプラットフォームについても、「BlackBerryも制約がある。Androidは2機種しかなく(注: 10月取材時)、ボリュームが少ないので様子を見ていく」とのことだった。

モバイルアプリを専門とするソフトウェア開発企業の英Mobicaも、現在開発の多くがSymbianベースだ。だが、同社で開発ディレクターを務めるJim Carroll氏は、「iPhoneにより、モバイルアプリへの期待が大きくなった。Symbianは学習曲線が高く(難しい)、スキルのある開発者が必要になる。だがツールもある。Androidはエキサイティングだが、変化のペースが速すぎる」と表現した。

さまざまなモバイルアプリケーションを見てきた独立系モバイルマーケットプレイス GetJarのマーケティング担当副社長 Partick Mork氏は、プラットフォーム選びは最初のステップとする。GetJarはモバイルアプリのベータテストサイトとして2004年にスタート、対応機種は1,700以上で、Symbian、Android、Javaとさまざまなプラットフォームをサポートする。「自社アプリケーションが関連性のある端末にリーチするための調査は重要」と同氏、GetJarでは、地域、端末メーカー、プラットフォーム別の統計を無料で公開しているとのことだ。

開発したアプリケーションをディストリビューションするメカニズムの違いも考慮する必要がある。Alner氏はそれぞれの違いを次のように説明した。「App Storeはユーザーにはすばらしい仕組みだが、コンテンツ開発側からみると発見されないと存在しないも同然。Symbianは制約が少ないのがメリット。直接Webサイトで販売することもできる。これはわれわれには大きな魅力」とAlner氏。

アプリケーションストアに出店するにはコストも必要だ。Symbian、iPhone、BlackBerryとだいたい200ドル代が相場のようだが、Symbian向けに音楽アプリケーション「Mobbler」を開発するMichael Coffey氏は、「フリーソフトウェアなので予算がない。(多数のアプリストアにディストリビューションできる)Symbian Horizonに期待している」と述べた。

どうやって目立つか? - デザインは最重要ポイント

iPhoneで人気の出会い系サイト「SKOUT」のRedg Snodgrass氏は、人気の秘訣を「見栄えと外観」と言い切る。「モバイルでは、斬新なデザインが必要。いかにして魅力的なアプリにするかを徹底して探った。そしたら、一度関心を集めるようになると、吸い寄せられるようにユーザーが増えた」という。

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日本のNHKラジオにあたる米National Public Radio(NPR)は、iPhoneアプリケーションでモバイルにデビューした。iPhoneでは上位にランクしているが、知名度もさながら、事前に行った詳細なリサーチが成功の秘訣のようだ。NPR Digital Mediaの製品マネージャ Demian Perry氏は、外観と調査を挙げる。「パネルを使って事前の調査を周到に行った。どのような機能やサービスを期待しているのか、どのようなインタフェースがよいのかを探った」とPerry氏。iPhoneの大きな画面は自社リスナーのニーズに合っているとPerry氏は続ける。NPRはiPhoneでの成功を受け、現在Symbianなど他のプラットフォームへの対応も進めているという。

Killer MobileのAlner氏がビジビリティを指摘したが、Get JarのMork氏も「ユーザーの目に触れるようにすること(ビジビリティ)は非常に大切」と語る。

「モバイルアプリは次々と生まれているが、ビジビリティはPCとの最大の違いになる」とMork氏。具体的には、「アプリケーションストアの内外で、ユーザーの利用文脈に沿った形でアプリケーションをプロモーションすること」とアドバイスする。GetJarでは、GoogleのAdSenseのようなプロモーションツールを提供しているという。

Mork氏はこのほかにも一案として、「App StoreやOviなど人気ストアの上位にランクしているアプリを調べ、そのアプリケーションに広告を出す、などのことも効果があるのではないか」と伝授してくれた。

マーケティング活動としてMork氏は、スクリーンショットとアプリケーションの説明を工夫するようアドバイスする。「製品紹介が充実しているページはやはり人気だ。機能や特徴を分かりやすく説明しているかどうかが大きな違いを生んでいる。開発者には面倒くさい作業だが、週に1時間でも時間を割いて改善することを強く勧める」(Mork氏)。

同時に、有料アプリの場合は、ユーザーが無料で体験できるデモ版提供も重要だという。「マーケティング予算が限られているなら、デモ版で試してもらうべきだ」とMork氏。すぐに購入につながらなくても、アウェアネスを改善できるし、後で購入する可能性もある。なお、無料版から有料版に変換する率は、知名度のある/なしが大きな違いを生んでいるようだ。ブランドではない場合、有料アプリへの変換率は良くて8%で、だいたいが2 - 4%の範囲だが、ブランドの場合は30%程度まで期待できるという。

MobblerのCoffey氏は、コストがほとんどかからないTwitterやFacebookを最大限に利用しており、効果を感じているようだ。MobblerはGoogle Codeでソースコードを公開しているが、Google Codeに寄せられる機能リクエストも参考にしているという。

フィードバックについては、GetJarのMork氏も、「ユーザーの声はときとして厳しいものもあるが、アプリを改善してくれるのはユーザーのフィードバック」と同意した。