企業を支えるのは社員 - あらためて言うまでもないことではあるが、経済がナレッジベースにシフトするにつれ、企業の競争力における社員ひとりひとりの重要性は高まる一方だ。
スウェーデンEricssonは、設立を1876年にさかのぼる伝統ある技術企業だ。世界に展開するICT企業というと米国企業が多いが、GSMの土台を構築し普及させたことで、同社やフィンランドNokiaはいまでもモバイル業界の重鎮となっている。だが、スタート先行で稼いだメリットはもう切れつつある。カナダNortelの倒産、仏Alcatelと米Lucentの統合、中国企業の台頭と通信機器業界は激動の中にあるが、Ericssonは買収と研究開発のバランスをとりながら、確実な足取りでゲームを進めてきた。
世界を制覇するスウェーデン企業を支える社員たちはどのような人事戦略の下にあるのだろうか。スウェーデン本社で同社の人事担当上級副社長 Marita Hellberg氏に話を聞いた。
--Ericssonの企業文化や社風はどのようなものでしょうか。
Ericssonには強い企業文化があります。土台はスウェーデンの文化です。
われわれは、企業が戦略を実行するには強い企業文化が必要と考えます。これにあたり、コアとなる価値ベースの土台を敷き、それを基に顧客との関係、従業員のコミット、オペレーショナルエクセレンスの枠組みを構築しました。これは、Ericssonの企業活動の枠組みとして機能しています。それを実際の行動や価値に変えていくわけですが、そこでは透明性とオープン性の維持を心がけています。
幹部も従業員も、共に土台を形成する価値を利用します。この価値は、能力管理(タレントマネジメント)の一部として、マネージャの開発、評価、任命にも利用されます。つまり、企業文化を支えるプラットフォームが企業全体のプロセスの一部となっているのです。
Ericssonは、信頼、尊重、オープン、透明性などの特徴を企業文化に意図的に組み込みました。われわれは従業員の能力とやる気を信頼しており、プロセスや開発に早期段階から参加してもらいます。組織として成功/発展するには、従業員の能力は不可欠です。早期から参加してもらう狙いはここにあります。
--人事戦略について教えてください。
人事戦略は、Ericssonの事業戦略と連携するものです。幹部と協力しながらEricssonが目指す方向性を考えますが、これと平行して、従業員の視点や特徴を見ます。どのような才能やスキルが必要か、どのような社内コンピテンス(能力)が必要か -- コンピテンスや能力を戦略的に活用することにフォーカスします。企業としての方向性がどこにあり、どのように到達するのかを練ります。コンピテンスという観点では、「Ericsson Academy」というナレッジセンターを構築しています。
Ericssonは知識を土台とした技術企業で、研究開発に従事している人は全社員8万人中2万人以上です。大学や博士課程の学生を採用する際、最も優秀で才能がある人を探しますが、同時に学生から選ばれるブランドとなることも目指しています。Ericssonの価値、従業員を大切にする姿勢などを通じて、才能ある人が働く場所として魅力的な企業になりたいと願っています。
実際、Ericssonは長く勤務する人が多い企業です。Ericssonは175カ国に進出しており、150の拠点を持つグローバル企業で、世界で活躍できるプラットフォームも提供します。私が勤務する本社人事部には、10カ国の国籍が集まっています。本社の見解、地元の見解の相互理解のため、チームを常に入れ替えるようにしています。
--Ericssonはスウェーデン企業でありながら、多国籍企業でもあります。国や文化の違いなどで難しいことはありますか?
Ericssonの文化にはスウェーデンの文化が組み込まれていますが、われわれの文化は米国、アジア、アフリカ、中近東と、世界中の従業員から受け入れられていると思います。その理由は、オープンと透明性です。これが信頼につながっているからだと思います。日本のEricssonには日本の味付けがなされていますが、完全な日本企業ではありません。米国もそうです。われわれはEricssonをスウェーデンの企業とも思っていません。Ericssonというブランド、方式を確立したと思っています。
注意していることは、階層的にならないことです。
われわれはまた、労働組合とも良好な関係を築いており、スウェーデンでは労組と一緒に作業しています。従業員を尊敬しているからです。解雇の際は労組に先に説明し、労組と一緒に解雇作業を進めます。見解にずれがあることもありますが、共通しているのは事業が存続することです。
6月にスウェーデンで解雇を実施しましたが、労組も合意しています。われわれは法で規定されているよりも財務手当てを厚くし、希望者にはコーチングなどの支援も提供しました。自分で事業を始めた人もいれば、他の企業に応募した人もいます。解雇した従業員の中には、Ericssonに感謝している、再度チャンスがあれば戻りたいという人もいます。これは良い証拠だと思います。