インターネットの普及、ソーシャルネットワークサービス(SNS)の定着は、大人だけでなく、子どもにも大きな影響を与えている。いや、子どもへの影響のほうが大きかったとしても、驚きではないだろう。米国のティーンネージャーの93%がインターネットを利用し、韓国では18歳以下の子どもの30%が1日最低2時間をオンラインで過ごすという報告もあるのだ。だが、サイバー空間には子どもに適切ではないコンテンツもあれば、いじめや差別などもある。現実社会と同様に、大人のサポートや参加が求められている。
サイバーセキュリティに取り組む国際電気通信連合(ITU)では昨年より、オンラインでの子ども保護のための世界的なイニシアティブ「Child Online Protection(COP)」を進めている。2009年10月、スイス・ジュネーブで開催した「ITU Telecom World 09」ではCOP初のガイドラインを公開、これに合わせて開いたフォーラムでは、ITU事務局長のHamadoun Toure氏をはじめ、政府関係者、NPOらが取り組みや課題について話し合った。
ITUは、政府、民間企業、NPOが協力してグローバルレベルでオンラインで子どもを保護することを目指し、セキュリティの取り組み「Global Cyber Security Agenda(GCA)」の一部としてCOPをスタートした。目標は、
- サイバー空間で子どもが直面するリスクと脆弱性の識別
- 認知普及
- リスクを最小限に抑えるツールの開発
- 知識と経験の共有
の4つ。このたびのCOPガイドライン公開により、今後はCOPに参加するメンバー各国がこれを実装していくことになる。
ITU事務局長のToure氏は7日、「われわれの世代が(次の世代である)子どもを保護することは、最重要課題の1つである」と述べ、「世界的なアプローチ」「民間企業とNPOの参画が不可欠」の2点を強調して協力を呼びかけた。
親のデジタル知識改善に取り組むマレーシア
マレーシア政府通信マルチメディア委員会のMohamed Sharil Tarmizi氏は、マレーシア政府の取り組みを紹介した。マレーシアでは、ブロードバンド普及とペースを合わせて子どもの保護に力を入れてきたという。
Tarmizi氏によると、6歳からインターネットを使い始める子どもも多く、政府は、親が最新技術や英語を知らないことを懸念しているという。「子どもがオンラインで何をしているのかがわかっていない親は多い」とTarmizi氏。
政府はこれに対応すべく、親にフォーカスした大規模なキャンペーンを実施した。各都市を回るロードショウキャンペーンも展開し、親のデジタルリテラシー改善をよびかけたという。また、オンラインで守るべきことなどをまとめたチラシを作成、学校や公共の場所など子どもが利用する可能性があるPCの横に貼り付けているという。このチラシはインターネットからもダウンロード可能で、子どものいる家庭にもPCの横に貼ることを推奨しているという。
デジタル市民としての教育を
COPに参加しているNPOの1つであるChild Helpline International(CHI)は、子どもをサポートする電話ホットラインを運営する国際組織だ。同団体の執行ディレクター Nenita La Rose氏は、子どもが最新技術のアーリーアダプタになっている反面、子どもたちが保護を必要としている事実を強調する。同団体にもオンライン関連の問題が上がりはじめるようになったという。
「ICTは教育やコミュニケーションでパワフルなツールとなっている一方、ボーダーレスなサイバー空間にあって、仮想と現実の境が付いていない子どもも多い」とLa Rose氏は問題を提起する。
La Rose氏は、「デジタル市民としての教育が必要。教育カリキュラムの一部とすべき」と述べる。また、政府、教育界、NPO、親、そして子どもが一体となるための枠組みも必要という。「最も大事なことは、オンラインのリスク、ダメージなどについて、子どもは知らされる権利があること」とLa Rose氏。ここでの教育界と親の役割は大きい、と続ける。さらには、問題が起こった後、問題を報告し、サポートやアドバイスを得られるCHIなどの機関があることが重要と続ける。課題として、「ソフトウェアやアプリケーションの開発過程において保護を組み込むことはできないか」と問いかけながら、まだまだ道のりは長いとする。
国際的協調、政府とNPOの参加が重要
「子どもの権利条約」の推進をはじめ、子どもの救済と保護に取り組む国際組織 Save the Childrenのデンマーク支部プロジェクトマネージャ Dieter Carstensen氏は、オンラインでの子どもの保護は、「政府の参加が不可欠」と強調する。COPでは、監視役となるNPOが加わっており、政府が問題をきちんと取り上げるだろうと期待する。
「規制を設けるだけでは解決しない。認知啓蒙とホットラインの両方のイニシアティブが必要」とCarstensen氏。インターネットはインターナショナルであり、国際レベルでの取り組みの重要性も訴えた。国境のないインターネットではコンテンツも自由に国をまたぐ。特定地域の団体の取り組みでは限界があるためだ。
モバイルの安全な利用の一環として、2008年に児童ポルノの危険に関する認知啓蒙を目的としたキャンペーンを開始したモバイル最大の業界団体GSM Association(GSMA)の欧州担当ディレクターMartin Whitehead氏も、「技術と利用パターンの移り変わりが速くなっている」と述べ、全体でのアプローチが必要と訴える。
いじめなど、Web 2.0ではオンライン保護対策も変化を
子どもに人気のSNS「MySpace」が国だったら、世界で8番目に大きい国になるといわれている。SNSは子どものオンラインライフで重要なアクティビティとなっていることを受け、英国生まれのSNSであるBebo(米AOL傘下)ではサイバーセキュリティ責任者という役職を設けて取り組んでいる。
Beboのサイバーセキュリティ責任者 Rachel O'Connell氏は、オンラインのいじめについて、「友人がいじめを行うことが多く、本人もいじめに回ることがある」とする。インターネットが普及し始めた当初、オンライン保護といえば「インターネットの先に漠然とした脅威があるので、個人情報を公開しないように」という姿勢だったが、根本的な変化が求められているという。一方で、「うまく活用すれば肯定的なメッセージを伝えられるチャンスでもある」と述べた。
フォーラムではこのほか、コンテンツのフィルタリングがなかなか普及しない点も話題となった。オーストラリアでフィルタリングの利用を義務付ける動きがあったが、実際はあまり進展していないという。オーストラリアに限らず、子どもを持つ家庭では世界的にフィルタリングの利用が進んでいないが、これはコストの問題というよりも、正確なメッセージが伝わっていない「マーケティングの課題」とする声が会場から出た。一方で、技術的な解決策に頼るよりも、子どもを教育するほうが賢明だという意見もあった。
また、構造レベルでの変化に期待する声もあった。インターネットはそもそも、知っている人同士がやりとりするネットワークとして設計されたのであり、全世界の人が使うようになることを想定していなかった。設計段階からセキュリティを作り込む「Security By Design」の考え方だけでなく、新しいインターネットの開発に期待する声もあった。