スマートフォンブームにより、モバイルブロードバンドの流れが加速している。スイス・ジュネーブで10月に開催された「ITU Telecom World 09」(主催: 国際電気通信連合)では、モバイルブロードバンドをテーマとしたセッションが開かれた。WiMAXオペレータの米Clearwire、標準化団体3GPPの代表者、それにKDDIの執行役員 コア技術統括本部長 安田豊氏らがパネルに同席し、それぞれの立場について語った。

セッションは、ITU無線通信局ディレクターのValery Timofeev氏がモデレータを務め、ETSIの3GPPモバイルコンピテンスセンタートップAdrian Scrase氏、Clearwire Internationa社長兼チーフアーキテクトのBarry West氏、KDDIの安田氏らがパネルとして参加した。

ETSIの3GPPモバイルコンピテンスセンタートップのAdrian Scrase氏

3.9G、4Gでは、WiMAXと3GPP(LTE、WCDMAなどの標準化団体)の2つの標準が存在することになる。GSM、WCDAM、LTEなどの標準化作業を進めてきた3GPPのScrase氏は、これまでの実績を強調して、以下のように語る。「GSMは標準による"規模の経済"を実証した。現在、30億人が利用している。標準化によりオペレータはコストを削減し、低コストでサービスを配信できる」、そして「マスマーケットの開発には、コストを下げるボリュームが不可欠」として、3GPPが推進するLTEが優位な立場にあることを示した。

もう1つの主張が選択肢だ。「GSM/EDGE、WCDMA、LTE、そしてLTE-Advanced - すべて存続&進化しており、成長している。われわれはオペレータにアップグレードを強制しない。オペレータは自分たちのペースや状況に合わせて成長できる」とScrase氏。

だがScrase氏は課題も挙げる。「顧客はモバイルブロードバンドとモバイルインターネットを求めている。だが、いったんそれを手に入れると、次は価格の低下を望む。昨年以来の財務危機もあり、業界にとってはエキサイティングだが、難しい時期だ」。

米Clearwireの国際部門Clearwire Internationalの社長兼チーフアーキテクトのBarry West氏。業界は長く、GSMオペレータに勤務していたこともある

ClearwireのWest氏はWiMAXを代表し、「モビリティ、モバイルインターネット、これに周波数帯が加わると、世界の経済やGDPは大きく成長する。WiMAXはこれを実現し、デジタルデバイドの縮小にも寄与する」と述べる。Clearwireは先日、スペインなど国際展開戦略を発表している。

子会社のUQコミュニケーションズでWiMAXを、自社はLTE導入計画を発表しているKDDIの安田氏は、「SNS、ビデオなどのWeb 2.0タイプのサービスなど、トラフィックの需要が高くなる。オペレータの重要なタスクは、どうやってサービス需要に対応するかだ」と語る。そこでブロードバンドサービスが必要となるが、モバイルユーザーの期待は、固定と同じようなサービスだ。「快適なサービスをマス向けに提供するには、トラフィック管理技術やサービス品質管理も必要だ」とした。

どの技術がリーダーになるのかというTimofeev氏の問いに対し、WiMAXのWest氏は、「リソースが限定されている上、顧客は土台の技術をまったく気にしていない。なのに、さまざまな技術がある。どうして合意できないのだろう?」と問いかける。

自身の回答として、「(WiMAXの標準化を進める)IEEEと3GPP、それに3GPP2の標準化プロセスは異なる」と述べる。IEEEについては、「人間は完全には合意しないという認識からスタートしている。大筋が了解すると、まずプロファイルを作る。Wi-Fiのように複数のプロファイルができ、相互運用性がないが、最終的に1つのプロファイルに調整されていく仕組みだ」とする。一方、3GPPについては、「97%が合意した後でも、残り3%がずっと存在し、時間がかかる」とする。3GPP2については、「Qualcommの専制君主だった」と手厳しい。そして、「3GPPがIEEE的なアプローチを採ることを望む」とScrase氏に呼びかけた。

一方、3GPPのScrase氏は、「(ITUの標準化プロセスである)IMTプロセスはよく機能している」と評価する。「IMT-2000(ITUの3G標準)では5つあったのが、IMT-Advanced(4G)ではおそらく2つになる」とし、「10年で5つから2つになったのは、すばらしい成果」と述べる。そして、「複数の標準が乱立は無理であり、LTEとWiMAXはマージするべきだ」との見解を示した。4Gでは遅れたが、次はその可能性もあるのではないか、と楽観視してみせた。

モバイルブロードバンドについては、「推進役はデータレートではない。重要なのは、全員に同じようなサービスを提供すること」とWest氏。シグナルの強さにばらつきがあることなどを課題とした。

KDDIの執行役員コア技術統括本部長 安田豊氏

安田氏は、WiMAX、LTEが共に土台とするOFDMA(直交周波数分割多元接続)の効果的な利用を課題とした。「どうやってハイデータスループットを基地局のフリンジエリア(外周地域)での干渉を避けつつ維持するか」と安田氏。これを解決するため、KDDIはラボでマルチサイトMIMOシステムなど新技術を開発しているという。このような技術は、屋内と屋外の境界線でも利用できると続ける。

「固定とモバイルの融合(FMC)時代、モバイルネットワークはハイスピードデータサービスを低コストで提供しなければならない。周波数帯の効率的な利用を低コストで実現するため、MIMO、アダプティブアンテナシステム、スケジューラ、コグニティブ無線、周波数帯域統合システムなどで可能性を探る必要があるとした。また、将来の可能性として、SDR(Software Defined Radio: ソフトウェア無線)、サテライトとセルラーの組み合わせなどにも触れた。

一方、開発や利用が進んでいる小型基地局のフェムトセルについては、Scrase氏は「フェムトセル利用で標準化が進んでいるが、フェムトセルの実装が最善かどうかは慎重にすべき」と述べた。「カバーエリアが行き届いている欧州のような場合は、GSMのフェムトセルは意味がない。米国など、広い面積に人口が分散しているような場合は可能性があるのでは」と述べた。