『SAPのBI活用術(3)』では、SAPとBusinessObjectsの経営統合のねらいについて、両社が有する技術の概略も交えながら解説した。
では、この経営統合が顧客にもたらすメリットはどのようなところにあるのか。ユーザー企業の経営強化という視点から、塚本氏に解説してもらおう。
執筆者紹介
塚本 眞一 (Shinichi Tsukamoto)
- SAPジャパン ビジネスユーザー& プラットフォーム事業本部
BIP事業開発部 部長
SAPによるBusinessObjects買収により、日本ビジネスオブジェクツからSAPジャパンへ移籍。同社におけるビジネスインテリジェンスプラットフォーム領域戦略策定市場開発を担当している。経営統合前は、日本ビジネスオブジェクツにおいて、セールスコンサルティング部門の責任者という立場でプリセールス活動から構築運用支援まで幅広い業務を受け持っていた。現在の活動のテーマは「最新技術の情報系システム適用推進」と「業務系システムと情報系システムの融合進化」。
「企業変革」を促す基幹系と情報系の統合
情報の価値を最大化することで、「企業変革」に貢献する―。これが、全世界で80,000社を超える顧客に向けてビジネスソフトウェアを提供するSAPが取り組んできた普遍的なテーマです。
これまでSAPは、主に基幹系と呼ばれる領域で、あらゆる業務を網羅したアプリケーション群によってビジネスプロセスの効率化に貢献してきました。また最近では、SOA(Service Oriented Architecture)のアプローチにより、変化対応力に優れたIT 基盤の実現にも注力しています。
そして、この取り組みをより一層強化するための施策が、BusinessObjectsとの経営統合を踏まえた次世代BI 基盤の構築です。そのねらいは、まさにBI の本質の実現にあります。これまでのBI 活用では、過去のデータに基づく現状分析や比較に多くの時間が費やされ、ビジネスのボトルネックの早期発見やタイムリーな意思決定の支援という面で一定の成果を生み出してきました。
しかしBI の本質は、過去の分析ではなく、むしろ未来の創造にあるというのがSAPの考えです。データマイニングや多次元分析によって将来を予測し、ビジネスの成長を加速するための「最適解」を導き出すこと。SAPが提唱する次世代BI 基盤の価値もそこにあります。
そのための重要な第一歩となるのが、基幹系と情報系の統合です。膨大な経営データは最初から分析用に加工されているわけはなく、しかも、複数のシステムでバラバラに管理されていることがほとんどです。
基幹系システムと情報系システムの有機的な連携、またそれぞれで管理されるデータの一元化。このための環境が整備されないかぎり、BI 活用によって生み出される「解」には差が生じてしまいます。
SAPはBusiness Objectsとの統合により、その差を解消し、全社的なBI 活用を標準化・自動化するための具体的な方法論をご提案できるようになったのです。
日本企業が抱える課題と欧米企業の取り組み
では、日本企業におけるBI 活用の現状はどうでしょうか。市販のツールを使って定型帳票を出力したり、必要なデータを高速検索してMicrosoft Excel に変換するといった手法はすでに一般化していますが、BIの本質を考えると、これはまだまだ受身の状況であり、自ら「最適解」を導き出すには至っていないのが実情です。
そこには、情報システム構築における過去の経緯も影響しています。多くの日本企業では、財務会計、生産管理、販売管理などのシステムは、それぞれ部門最適の発想で構築されており、その結果、データ分析においても、あくまで個別業務の部分解に終始しているように思えます。
また、BI ツールの選定にあたっても、部門主導で行われているケースが少なくないようです。ある企業では、文書型のデータベースを含めて2,000種類ものデータベースが社内に存在し、マスターのコード体系も異なるといいます。当然、全社的なBI 活用の実現に向けては、これらの整備が大きなネックになることは言うまでもありません。
一方、欧米では分析やレポート作成における方法論やツールの標準化が日本よりはるかに進んでいます。インフォメーションワーカーがMicrosoft Officeと同じ感覚で全社標準のBIツールを活用している例も珍しくありません。
そもそも、どのようなデータをどのような視点で分析するかということは、個に依存した要素を持っています。それだけに、分析を属人化させないための施策が徹底され、すべての社員が当たり前のように情報を分析活用する、全社BI のスタイルが確立しつつあるのです。 また、ツールの標準化、分析の自動化によって、部門ごとに異なるデータの氾濫がなくなり、整合性が担保されることで、管理負担など無駄なコストを削減することも大きな効果といえます。
BI 活用の標準化による企業の「肉体改造」
もちろん、日本においても、基幹系と情報系の統合による組織の「肉体改造」に着手している先進的な事例はあります。BI 活用を標準化することで、変化に柔軟な組織体質を作り上げておくことが、厳しい経営環境を乗り切るための切実な課題として認識され始めているのです。
ただし、ビジネスの持続的な成長は、情報を分析するだけで実現するものではありません。最適解をベースに、正しい現状認識と予測を繰り返しながら、経営のPDCAに還元していくことがあるべき姿です。つまり、分析結果の現場へのフィードバック、さらにその実践をトータルに考えてこそ、BI 活用の本当のメリットが生まれます(図1参照)。
同時に業務系と情報系の統合は、リスク管理やコンプライアンスといった観点でも有効性を発揮します。従来のシステム構成では、コンプライアンスのチェーンが業務系と情報系で切り離されていました。この点、SAPとBusiness Objects の統合ソリューションは、業務系に加えて情報系のログまでを容易に管理し、監査性が一層向上します。
最後に、忘れてはならないのが「国際競争力」の強化です。グローバルなビジネスを展開していく上で、日本企業の情報力・分析力は、海外の先進企業との間に大きな差があります。厳しい経営環境のいまこそ、正確な情報分析に基づいて、社員が自ら考え、アクションを起こせる環境が求められています。
統計学に立脚した経営技術のコンサルティングノウハウなど、グローバルでの実績に裏付けられた豊富な経験を備えるSAPは、Business Objectsとの統合ソリューションを通じて、企業変革を支援するさまざまな価値をお客様にご提供できるはずです。
※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.5』に掲載された特集『SAP BusinessObjectsがもたらす企業情報活用の革新』を一部加筆のうえ転載したものです。