『SAPのBI活用術』では、これまでBusinessObjectsによる営業革新の事例や、BusinessObjectsの主な機能について紹介してきた。その内容から、SAPとBusinessObjectsの製品を活用することで、業務効率やビジネスの進め方を大幅に改善できることがご理解いただけたはずだ。

このように、非常に親和性の高い両技術だが、元々異なる企業として事業を展開し、順調にビジネスを拡大していた両社が、経営統合にまで踏み切るに至った背景にはどのようなねらいがあったのか。ここでは、SAPジャパン ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部 BIP事業開発部 部長の塚本眞一氏に、両社が得意としてきた技術分野を整理しながら、そのあたりの詳細を明らかにしてもらおう。

執筆者紹介

塚本 眞一 (Shinichi Tsukamoto)
- SAPジャパン ビジネスユーザー&プラットフォーム事業本部
  BIP事業開発部 部長


SAPによるBusinessObjects買収により、日本ビジネスオブジェクツからSAPジャパンへ移籍。同社におけるビジネスインテリジェンスプラットフォーム領域戦略策定市場開発を担当している。

経営統合前は、日本ビジネスオブジェクツにおいて、セールスコンサルティング部門の責任者という立場でプリセールス活動から構築運用支援まで幅広く業務を受け持っていた。現在の活動のテーマは「最新技術の情報系システム適用推進」と「業務系システムと情報系システムの融合進化」。

"自由分析"を得るために

2007年10月、SAP AGはBIソフトウェアの世界的大手であるBusinessObjectsとの経営統合を発表しました。これを受けてSAP ジャパンにおいても、従来のSAPソリューションとBusinessObjects製品の融合による新たなソリューションラインナップの構築に向けて、全社を上げて取り組んでいます。

そこで、まずSAPとBusinessObjectsの経営統合の意義について、あらためて整理してみたいと思います。

ご存じの通り、SAPはビジネスソフトウェアの分野で35年以上の経験があり、ERPやCRMなどのビジネスアプリケーションで高いシェアを誇ります。またBusinessObjectsも単独のBI ベンダーとして、売上高・顧客数ともに世界でトップクラスの地位を築いています。両社の経営統合の意義は、この組み合わせでしか創出し得ない新たなソリューションの実現、すなわち「基幹情報系」ともいわれる情報システムの追求にあります。

これまでSAPは、財務会計・販売から購買管理・生産管理・人事管理に至るまで、ほぼすべての業務を網羅したアプリケーション群によって、基幹系と呼ばれる領域で卓越した機能をユーザーに提供してきました。一方で、BusinessObjects は、いわゆる情報系と呼ばれる領域で大きなアドバンテージを有しています。SAPとBusinessObjectsの統合が目指すのは、この両方の強みを融合することに他なりません。言い換えれば、「情報システムのあるべき姿を具現化する」、それが経営統合の大きなねらいなのです。

SAPはこれまでも、SAP Business Information Warehouse (現在ではSAP NetWeaver Business Warehouseとして提供)という製品を通じて、情報系の領域をカバーしてきました。SAP BWは、SAP ERP との親和性が高く、定型帳票の出力という点でさまざまな業務に成果をもたらしてきました。しかし、SAP BW はどちらかというと、プロフェッショナルユースのソリューションであり、業務の現場で求められるデータの自由分析という観点では開発されていません。

そこでSAP が白羽の矢を立てたのが、BusinessObjectsです。BusinessObjects のソリューションは(図1参照)、エンドユーザー自身が身近な業務データを自由に分析できることを基本とし、SAP BWとは対極にある領域をカバーします。

図1: BusinessObjectsのソリューション「すべての人へ、すべての情報を、統合プラットフォームで」

同時に自由分析では、そのもととなるデータの整合性が重要になります。その点でも、SAP ERPとのシームレスな連携が可能になることは、ユーザーにこれまでにない利便性とメリットをもたらします。