『こま撮りえいが こまねこ』という作品をご存知だろうか? 3DCGを多用した作品が乱発されるなか、フェルト製の人形を使用したコマ撮り(ストップモーションアニメ)という映像表現手法で、動物達の心温まる物語を描いている作品だ。その最新作である『こま撮りえいが こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント』が発売された。
1分間の映像に1,440カットの撮影が必要
「コマ撮り(ストップモーションアニメ)」とは、具体的にどんな手法なのだろうか? この手法では、文字通り被写体をひとコマごとに少しだけ動かしてワンカット撮影、撮影された素材を連続して表示し、動画を作成する。こう書くと簡単そうだが、実際の撮影は、かなり緻密で忍耐強い長期に渡る作業の連続となる。以前、マイコミジャーナルで紹介した『電信柱エレミの恋』の場合、その制作期間は8年にも及んだという。
今回紹介する『こまねこ』の場合、炎や雪などごく一部の合成部分を除いて、すべての映像が、人形と実景セットをコマ撮りすることによって作られている。通常、ストップモーションアニメでは、1秒間の映像を制作するために、24カットもの撮影が必要となる。計算すると、1分間で1,440カット……。『こまねこ』の最新作『こま撮りえいが こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント』はトータル20分間の作品で、エンドロール部分を除き約15分間ストップモーションアニメパートがある作品だ。この15分間のために、スタッフは2万1,720カットもの撮影を行ったという。
1日かけて7秒の映像を撮影
24カットで1秒の動きを表現するという事は、1カットの撮影ごとに24分の1秒分の動きの変化を人形や背景に加えるという事。『こまねこ』の撮影現場では、この膨大で緻密な作業がひたすら続けられる。『こまねこ』の場合、熟練したスタッフ達が全力を注いでも、1日最大7秒分の撮影しかできなかったという。本当に気の遠くなるような膨大な作業だ。
動画を見た第一印象は「かわいい」としか形容しようのない『こまねこ』だが、この作品は、この膨大な作業を支えた、クリエイターの凄まじい熱量によって成立している。この作品を作ったのは、どんな人物なのだろうか? そんな想いを抱きながら、『こまねこ』の制作会社であるドワーフを訪れた。
「どーもくん」や「こまねこ」が生まれた場所へ
制作会社ドワーフは東京都内某所の閑静な住宅街の中にある。地図で示された場所に待っていたのは、巨大な倉庫。巨大な倉庫のドア横には見慣れたキャラクターの姿があった。NHKのキャラクターとして広く知られている『どーもくん』だ。どーもくんは、ドワーフの郵便ポストとして、テレビ同様に大きな口を開けて、我々を待ち受けていた。そう、ドワーフは『どーもくん』のストップモーションアニメも制作しているのだ。
ドワーフの巨大な倉庫の中は、いくつものパーテーションで仕切られていた。ドワーフはこの巨大な倉庫をオフィスだけでなく、『どーもくん』や『こまねこ』などのストップモーション作品の撮影スタジオとしても使用しているようだ。
ドワーフの生み出したキャラクターたちのグッズがディスプレイされた応接室や、こまねこ撮影で使用された描き割りの背景画、照明、小道具などが無造作に置かれた撮影スタジオ。この一角には、『どーもくん』や『こまねこ』シリーズの合田経郎監督直筆の「こまのひみつ」と題された図版も展示してある。この図版では、コマ撮りの秘密が監督自身により図解されている。これを熟読していると、こまねこやどーもくんの産みの親である合田経郎監督が現れた。いかにして合田監督は、愛すべきキャラクターたちを生み出し、コマ撮りという大変な手間の掛かる手法で世に送り出すことになったのだろうか。クリエイター・合田経郎がコマ撮りの魅力と秘密を、たっぷりと語ってくれた(※合田経郎監督インタビューは近日掲載予定)。
合田監督直筆 「こまのひみつ」
(C)アミ・ドゥ・こまねこ
写真撮影:糠野伸