NHK放送技術研究所 藤田欣裕氏

10月に国際電気通信連合(ITU)が本部のあるスイス・ジュネーブで開催した「ITU Telecom World 09」、最終日にはNHK放送技術研究所の藤田欣裕氏がメインフォーラムに参加し、HDTV(High Definition Television)、UHDTV(Ultra High Definition Television)、3DTVなどについてNHKの取り組みを紹介した。また、別のパネリストは、ユーザーが参加するオープンモデルの重要性を説いた。

5日間のイベントのエンディングを飾るフォーラムのテーマは「将来のイノベーション」。会期中、主役はインターネットや携帯電話だったが、放送/TVも融合している。ITUはHDTVなどの規格の策定も進めている。

藤田氏はまず、HDTVの進捗に触れる。「フラットパネルディスプレイの売り上げは今年7月、前年同期比50%増となった。これは、政府の奨励策(エコポイント)の効果でもあるが、消費者が高品質なTVを求めていることを示すものだ」と藤田氏は述べる。

NHKは約40年前に"ハイビジョン"ことHDTVの研究を開始、ITU標準に大きく貢献している。「HDTVとは、ディスプレイが高精細だけでない。本質は、一般家庭に大画面TVをもたらすということ」と藤田氏。「TVは世界への窓だが、HDTVはこれをさらに拡大する。成長国でかなり普及しており、将来、間違いなく全世界に急速に普及するだろう」と続ける。

藤田氏はまた、NHK研究所が開発を進めてきたUHDTV("スーパーハイビジョン")についても触れた。UHDTVは走査線4,000本級で、HDTVと比較すると画素数は16倍となる。NHKは2005年の「愛・地球博」で披露している。

HDTVの視野角は30度だが、UHDTVの視野角最大100度。リアル感のある体験が可能となると藤田氏。「UHDTVの開発目的は、2Dの究極的な形を求めてのこと」と藤田氏、持続性のためには人間の性質にあわせた技術が必要だと述べる。NHKでは、UHDTVの研究を10 - 20年プロジェクトで進めており、「これまでTVが経済/社会/文化に貢献したのと同じように、貢献できる」とした。

3DTVについては、「次世代TVの大きな課題となることは間違いない」と藤田氏。米国での3Dシネマ人気、欧州で進む研究プロジェクトなどに触れ、経済を奨励するだろうとした。だが、3DTVの課題も指摘する。「放送局は視聴者の環境をコントロールできない」と藤田氏は述べ、現在の3DTVは理想的な視聴体験ではないという懸念を示した。

現在、NHKでは、眼鏡を必要としない3Dシステムの開発など理想的な視聴を目指して研究を進めているという。

Mark Krivoncheev氏

パネルに参加したITUのTV標準化グループであるITU-R Study Group 11で約30年間チェアマンを務めたロシア・ラジオ研究所の主席科学者兼教授 Mark Krivoncheev氏は、NHK/日本の貢献を高く評価した。1970年代に日本がHDTVを提案した際、他の参加国が反対した経緯などに触れ、「日本の技術は優れている」と述べた。

Krivoncheev氏、HDTVは「人々が家庭で高品質な画像を楽しめる唯一かつ最高の技術」とし、来る3DTVでHDTVレベルの品質を実現するよう求めた。

Hung Song氏

韓国Samsung Electronicsで通信システム・デジタルメディア・コミュニケーション グローバルマーケティンググループの副社長 Hung Song氏は、PC、TV、モバイルの3つの画面の時代になったとして、「同じコンテンツと情報を3つの画面でいつでもどこでも利用できるようしていく必要がある」と主張した。

イノベーションについては、スイスLift labの設立者兼ディレクター Laurent Haug氏がオープンモデルの重要性を強調する。

インターネットの前、企業は技術開発と同時に、開発した技術の利用を定義していた。フレームワークや技術を強固にし、ユーザーにどうやって技術を使うのかを指示していた。だが、「インターネット登場後、ユーザーが参加するようになった」とHaug氏。以前のように技術の利用を定義する企業の役割は低くなっており、フレームワークの提供が求められているという。

Haug氏が例に挙げるのは米Appleだ。「Appleはオープンな企業ではない。だが、「iPhone」アプリを奨励するためにSDKを提供した。そして、iPhoneアプリは急増した」とHaug氏。韓国では11月にようやくiPhoneが発売されたが、「iPod touch」しかなかった状況でも、iPhoneアプリケーション開発が爆発的に進んだという。

Laurent Haug氏

「土台とフレームワークを与えれば、ユーザーは活用する」とHaug氏。大切なことは、「どこをどうやってオープンにするのか」 - ユーザーの創造性を発揮できるようにすることだという。

「Linuxなど、ソフトウェアではじまったオープンソースの動きがモノにも発展しつつある」とHaug氏。たとえば、スタンフォード大学が先に発表したオープンソースカメラプロジェクトでは、ユーザーが機能を追加したり変更できるようになるという。

「オープンにすると、ユーザーが集まってくる。スキルの高いユーザーがさらに魅力的に、高機能にしてくれる。ユーザーが新しいユーザーを運んでくれる」とHaug氏。「価値をつけようとするユーザーのパワーはすごいものがある」と続ける。iPhoneでは開発者とAppleが売り上げをシェアするモデルが導入されたが、ユーザーの成功は自社の成功となる。今後は、どの企業もどうやってユーザーを参加させるか考える必要がある、と強調した。