三洋ソーラーエナジーシステムの亀田正弘社長

三洋電機は、太陽光発電システムにおいて、2012年度には国内トップシェアを獲得する方針を明らかにした。

三洋ソーラーエナジーシステムの亀田正弘社長は、「2012年度の国内太陽電池市場規模は、800MWから1.1GWが想定される。三洋電機はその中で40%のシェアを獲得し、トップシェア獲得を目指す」と意気込む。

現在、住宅用太陽光発電システムにおいては、シャープが首位を独走し、三洋電機は第2位。一方、業務用太陽光発電システムにおいては、京セラが先行し、三洋電機はやはり2位。総合順位では、第3位という立場にある。

その三洋電機が2012年にトップシェアを獲得する理由はどこにあるのだろうか。

1つめには、電力買い取り制度において、三洋電機のHIT太陽電池が優位性を発揮できると見ているからだ。

三洋電機のHIT太陽電池

2009年11月1日から導入された新たな電力買い取り制度は、家庭用の太陽光発電システムで自家発電した電力から、自家消費した分を差し引いた余剰電力を、電気料金の2倍で電力会社に売却することができる。つまり、設置面積あたりの発電量が多いほど余剰電力が増え、売電金額が増加するということになる。

「HIT太陽電池は、セル変換効率としては世界トップレベルの20.0%を量産化において実現。さらに、発電量の温度依存性が少ないため、初期の発電量に加えて、屋根の上で60度、70度となった場合でも出力低下が少ない。研究段階では実用サイズの100平方センチメートルにおいて23.0%の変換効率を実現している」(三洋電機ソーラー事業部事業企画部 脇坂健一郎氏)とする。

HIT太陽電池の変換効率

また、「売電に加え、政府、自治体などの補助金制度があるため、補助金がない場合には投資回収に約26年かかるものが、11.5年で済むという試算もある。今年4 - 9月の東京都の補助金申請においては、三洋電機の太陽光発電システムの申請が最も多いという結果がでている」(亀田社長)という手応えも見逃せない。

「HITでFIT」をキーワードに、三洋電機のHIT太陽電池を住宅に設置した場合に、補助金利用や売電金額、月々の固定費などを計算。そこから回収期間や、毎月の利益がどの程度でるのかいったことを試算できる「FIT訴求シミュレーションソフト」を提供するとともに、設計/見積もり支援ソフトを導入して、ユーザーの購入意欲を高める考えだ。

HITでFITをキーワードに展開。シミュレーションソフトを活用した提案も

三洋電機 ソーラー事業部 事業企画部 脇坂健一郎氏

2つめには、国内販売体制の強化に乗り出す姿勢を強めていることだ。

現在、三洋電機には約20社の有力代理店があり、同社売り上げの約35%を占めている。これらの有力代理店の出店計画をサポートし、全国的に販売網を強化する考えを示す。

「販売、施工、アフターサービスなどの技術を持つ有力店の全国展開、チェーン化を支援する一方で、地域電気店を通じたオール電化の提案に組み合わせた展開も行う。さらに、商社系の販売ルートを通じたBtoBも同時に強化し、販売量の拡大を図る」(亀田社長)

スクール・ニューディール構想や電力会社のメガソーラー化に向けた営業体制の確立にも乗り出す考えで、「当社の支店においても、業務用物件を扱う機能をさらに強化していく」としている。とくに、業務用分野においては、駐車場への設置などの新たな提案を進める体制を整え、巻き返しを図る考えだ。

具体的なターゲットとしてコインパーキングの屋根に太陽光発電システムを設置するソーラールーフを提案。これをバリューパーキング(VP)とし、将来の電気自動車への充電や、電気式自転車の充電用途などへの利用のほか、夏場炎天下の車内温度上昇の抑制にも寄与するとしている。

三洋電機のHIT太陽電池は、表面だけでなく、裏面からも発電ができるHITダブル方式を用いることも可能であり、これによって発電量をさらに高めることができる。徳島県では駐輪場などへの設置ですでに実績があがっており、これと蓄電池を組み合わせた提案も行っている。こうした蓄エネや、管理を行う活エネといった観点からの展開も加速することになりそうだ。

現在、三洋電機にTOBを進めているパナソニック、およびパナソニック電工の販売ルートを通じた、太陽光発電システムの新たな販売ルートの創出も、三洋電機にとってはトップシェア獲得に大きな追い風となるだろう。

そして3つめには、太陽光発電システムの供給体制として、全世界におけるHIT太陽電池の生産能力を、現在の340MWから、2010年度末には600MWへと大幅に拡大することだ。

三洋電機のHIT太陽電池の生産規模の推移

国内に集中しているセル生産については、島根三洋電機の生産能力を130MWから220MWに拡大。さらに、二色の浜工場でも210MWから345MWに拡張する。一方、モジュールの生産能力は二色の浜工場で35MWで稼働、滋賀工場では既存の100MWの体制から200MWに拡張する。これによって、国内だけで235MWのモジュール生産体制が確立する。

全世界規模では、これにモジュール生産のハンガリー工場、モンテレー工場でもそれぞれ増産体制を敷くほか、三洋ソーラーのカリフォルニア、オレゴンの両工場では、インゴット・ウェハの生産能力を、来年4月には合計100MWとし、材料調達の面でも安定化を図ることになる。全世界では、セルで565MW、モジュールで625MWというのが、三洋電機が目指す600MW体制の概要となる。

こうした体制により、世界的な需要拡大にも対応していく考えで、「2015年度には生産能力を1.5GWにまで高め、グローバルトップ3を目指す」(脇坂氏)と意欲を見せる。

HIT太陽電池における600MW生産体制の内訳

2015年度には1.5GWの生産体制を目指すことを明らかにした

経済産業省の試算によると、2020年度には、2005年度の約20倍となる約530万戸の家庭に太陽光発電システムが導入されると見られている。これは4件に1件の割合だ。

だが、その一方で鳩山内閣が発表した、「2020年度までに、1990年比25%のCO2削減を目指す」という国際公約を達成する上では、現在の55倍の太陽光発電システムを導入しなくてはならないという試算もある。

2009年度の補助金申請件数は、上期だけで5万2,493件に達しており、10月は1万4,900件、11月も1万件を突破するなど、すでに年間の導入実績は8万件と突破しており、昨年度実績の5万5100件の導入をはるかに上回っている。「当初は10万件程度の年間導入が見込まれていたが、この調子では10万件を突破するのが確実で、12 - 13万件に達する可能性もある」(亀田社長)という。

2009年度予算で201億円の補助金が計上されたことに加えて、補正予算220億円により、当初2010年1月29日までとしていた募集期間が、2010年3月31日にまで延長されたことも、太陽光発電システムの需要拡大に寄与している。今後は、システム価格の下落といった動きも出てくることで、さらに需要は加速するだろう。

三洋電機の太陽光発電事業への取り組み

三洋電機の太陽光発電システム事業における中期的な目標

三洋電機は、そうした市場環境のなかで、製品、販売、生産という観点から、トップシェア獲得に向けた準備を着々と進めつつあるというわけだ。