IMECがここ数年、応用を意識した研究も加え、その規模を拡大しつつある。当初研究してきた半導体プロセスは、先端では32nmまで微細化してきたため、従来のスケーリング則に従う技術をナノエレクトロニクスという名称でこれをさらに追及する。新たな応用は、環境を意識した分野、高齢化社会に向けたヘルスケア関係に尽きる、と言ってよい。
従来の延長技術に対してもIMECはもう1つのテーマであるMore than MooreをCMOSがベースにあることから「CMORE」研究と名付け、CMOS回路とMEMSや光ディテクタや化学センサ、バイオインタフェース、温度センサ、マイクロミラーなどとの集積化をさらに進める。あるいはGaN on Si、TSVによる3次元実装、など単純な微細化だけではない多機能回路を研究する。
10月6日にIMECとTSMCがMEMSで協力というニュースが日刊工業新聞にて報じられたが、この報道は正しくない。実はMEMSで両社が協力することは以前から伝えられていた。今回は、CMORE技術で協力、すなわち多機能回路をCMOS ICと1つのパッケージに集積する技術で協力する。SoCというよりもSiPにより1パッケージ化する技術がその提携の肝である。SiGeのMEMSやTSV、WLP、さらにはテストや信頼性試験なども対象となる。
環境テーマとしての太陽光発電
IMECが取り組む環境のテーマには、太陽光発電や、グリーン無線などがある。太陽光発電にはSi結晶系、有機材料系などを検討する。Si結晶に関してはウェハを薄くしながら効率を上げることで環境負荷を減らす方向の研究を始めている。現在は120μm程度だが、これを80μm、さらには40μmへと減らしていく。80μmまでは現状のダイシング技術を極めることになるが、40μmは表面から当該深さの面に何らかのキズ(イオン注入など)を付けて、パカッとはがれるような方法(Layer transition process)を導入することで実現できると研究者は考えている。
さらに薄くする場合は、エピタキシャル成長を低コストに実現できる方法を開発したり、ガラス上にSiの種層を形成する技術を開発したり、それらを組み合わせるなどの方法を使う。
有機材料を使う太陽電池の研究も始めている。こちらはもともと薄いため、効率を上げる、安定性や信頼性を上げる、そして大面積化が課題となっている。これらの研究を進めるため、シート・ツー・シート方式で太陽電池を試作する製造試作ラインを作った。スプレイコータやインクジェットプリンタ、スクリーン印刷機、ブレードコータなどをラインに設置している。
太陽電池の効率を向上させるアイデアもいくつかある。Shockley, W. and Queisserの単一接合の理論限界である効率31%を超えるようなさまざまな技術が提案されており、材料そのものをナノスケールから開発、すなわち多重量子井戸構造やホットキャリヤ利用、バンド間準位を利用する方法などを組み合わせれば理論的には最大87%まで効率を上げられるという。
低消費電力実現に向けたソフトウェア無線技術
グリーン無線とは、低消費電力で電力をたくさん使う製造負担を和らげるソフトウェア無線を利用する無線通信技術を指している。ソフトウェアでいろいろな無線方式に対応できる同方式は1チップででき、方式ごとにチップを起こす必要がないため、製造負担を軽減できる。CO2を削減するプロジェクトには製造エネルギーの削減も含まれる訳である。
同無線方式のベースバンドチップを「Scalable radio(SCALDIO)」と名付け、2007年および2009年のISSCC(国際固体回路会議)においてリコンフィギュアラブルな受信チップとして発表している。現在開発中のリコンフィギュアラブルトランシーバ(送受信機)は40nmのCMOSプロセスで設計し、評価中。最初の3GPP-LTEフレキシブルなRF要求に応えられるチップとなる。
同無線にセンシングと判断の回路を追加搭載するとコグニティブ無線になる。コグニティブ無線は例えば、携帯電話の電波が混んでいて通じない場合には、空いている基地局を探し自動的にその局につなげてしまう技術だ。いくつかの通信方式が並列に標準化されて作動していて、さらに4G時代のLTEやLTE-Advancedなどに対応しているという前提である。そのための専用プロセッサ「ADRES(architecture for dynamically reconfigurable embedded systems)」を開発、マルチスレッド方式のアーキテクチャを採用しており、再構成可能なようにフレキシブルなプラットフォームを想定している。このプロセッサの基本的な考えは、再構成できるように粒度の粗い小さなプロセッサアレイに機能をマッピングし、マルチスレッド動作はVLIWアーキテクチャのデュアルコアが受け持つことで、性能向上とフレキシビリティを両立させている。
健康関係の研究としては2つあり、1つはBAN(ボディエリアネットワーク)であり、もう1つは脳の活動状態を調べる研究だ。BANはこれからの高齢化社会に対して、病気を早期発見・早期予防を行うための体温・心拍・血圧などの24時間測定とデータログを採るシステムに使う。フレキシブルプリント基板にセンサや計測するための低消費電力マイコン、送信機を搭載し、それを人体に張り付ける。そのデータを24時間測定し、最終的に病院に送るというもの。数値の最大・最小の範囲に24時間入っているかどうかをチェックすることで病気の早期発見ができる。
脳の活動状態は、例えば睡眠異常を早期に発見したり、ストレスの状態を知ることで精神病の治療に役立てようというもの。その他、神経細胞を集積回路の中に取り込む試みや電気刺激に対するニューロンの動きなどを解明する研究も手掛けている。