クラウド、仮想化、SaaS……激しいパラダイムシフトが今まさに展開している中、エンタープライズシステムの"老舗"とも言うべき存在の独SAPはどのような戦略に出るのか。10月にスイス・ジュネーブで開催された国際電気通信連合(ITU)でのSAPの見解を紹介しよう。
「われわれ既存ベンダはSaaSの波を受けている」と独SAP 最高開発アーキテクト兼副社長のAlistair Barros氏は認める。業務アプリケーション分野では、クラウドとオンデマンドという新しいトレンドが本格化し、普及段階に入っている。「SAP、Oracleなどの既存ベンダはどこもダメージを受けている」とBarros氏は続ける。
当初ベンチャー色が濃かったSalesforce.com、NetSuiteなどのSaaSプロバイダだが、いまでは収益性を改善しつつあり、信頼を獲得している。これらSaaSプロバイダは中小企業(SMB)の敷居を低くし、いまや、SAPがなかなか入り込めなかったSMB市場を掴みつつある。このような環境で、ERP最大手のSAPの戦略はどのようなものなのか。
Barros氏は、SAPの戦略を4つのフェーズに分けて説明する。
フェーズ1は"認識"。「我々には、ビジネス機能のDNAがあるということを認識する必要がある」とBarros氏。これまでの歴史、優れた開発チーム、テスト済みの製品が手元にあるということだ。課題は「アプリケーションのポートフォリオと市場セグメントを拡大するオンデマンドの開拓」と続ける。
フェーズ2は"オンデマンドとオンプレミスのミックス"だ。金融機関、製造業など、「ミッションクリティカルなビジネスプロセスが、オンデマンドに移行することはない。(オンデマンドによる)リプレースは不可能だ」とBarros氏。このような企業を主要顧客とするSAPにとって、オンデマンド戦略は「オンプレミスと統合して意味がでてくる」と続ける。Barros氏は別の「ミックス」として、SAPと非SAPサービスの統合も進めていることにも触れた。
フェーズ3は"サービスの資本化"だ。将来的にサービスがコモディティ化し、相互運用性が求められるという。たとえばAmerican Expressでは、金融業に加えてホテルやレンタカーなどのマーケットプレイスを提供しており、企業顧客がこのマーケットプレイスを利用すると最大40%のコストを削減できるという。すでに売上高は10億ドルを達成しているとのことだ。「ネットワークを活用して、サービスを資本化すること」と次のステップを説明する。
フェーズ4では、これを"インターネットに拡大"すること。インターネット上にはさまざまなサービスがあるが、「シームレスにサービスやコンテンツを発見したり、アクセスする。さらに、サービスやコンテンツを柔軟にアグリゲートすることで、チャネルが拡大する」とBarros氏。
これを実現するのは、オープンなサービスプラットフォームだ。「サービスを活用し、柔軟性を実現する新しいプラットフォームのアーキテクチャが重要になる」とBarros氏は述べた。
将来の可能性として、Barros氏は、「認識技術が重要になるのでは」と予想する。画像などのイメージ認識やさまざまなサービスの認識は、コンシューマだけでなく、同社の顧客である製薬などでプロセスを効率化するものになると述べた。