世の中に数多くのフォトレタッチソフトが出回る中で、その代名詞的ソフトとして知名度・機能ともに他ソフトとは一線を画す存在のAdobe Photoshop。撮影した写真を印刷映えする色に補正する、あるいは撮影に失敗してしまった写真を救済する、さらには曇っている空を晴天にしてしまう。これまでに、Adobe Photoshopはデジタル写真の可能性を自らの進化で大きく拡げてきた。
初めてAdobe Photoshop 1.0が世の中に登場してから約20年。これまでの流れと重大なトピックを簡単に追ってみよう。
Adobe Photoshopの基本をおさらい
Adobe Photoshopがアドビ システムズから初めて発売されたのは1990年のこと。開発したのは、現在アドビ システムズに在籍するトーマス・ノールと、ILM(Industrial Light & Magic)に在籍するジョン・ノール。トーマス・ノールの名前はAdobe Photoshopの起動画面でもおなじみだろう。
当初はグレースケール画像の編集ソフトウェアだったが、1987年にノール兄弟がAdobe Photoshopの原型となるアプリケーションを開発した後、アドビ システムズがライセンスと販売権を取得。そして、発売となった。
このAdobe Photoshop 1.0は画像の合成や4色分解が可能で、このあたりの技術投入には、アドビ システムズが印刷・グラフィック業界向けに製品開発を行ってきた結果が反映されているといっても過言ではない。日本市場でも1991年には発売が開始されており、その後のバージョンアップも数ヶ月から1年遅れのスケジュールを保っている。
ここで、Adobe Photoshopの基本的な概念についておさらいしておこう。Adobe Photoshopを理解するためには、まず解像度とピクセルの関係を押さえなければならない。解像度は、アウトプット先のメディアに合わせて設定しなければならないし、ピクセルは画像の細かさを示す言葉だ。解像度が高ければ画像への情報量も増える(=1インチ当たりに入るピクセル数が増える)。 前回紹介したAdobe Illustratorで作成できるのは、ベクターデータだが、Adobe Photoshopではビットマップデータを編集・作成することになる。似た言葉で「ラスターデータ」もあるが、ビットマップが画像を格子状に区切った正方形の形状をしているのに対して、ラスターデータはビットマップが線上に並んだものを指す。簡単に言えば、画像が横一列の短冊状に並んだものだ。そのため、ラスターデータというのも間違いではないが、両者の意味の違いは理解しておこう。
また、解像度を示す言葉には「dpi」(dot per inch)と「ppi」(pixel per inch)の2種類があることにも疑問をもったことがある人も多いだろう。「ドット」とは、簡単に言えば「網点」のことで、印刷物制作の工程で刷版などを出力する際にどの程度のドットの大きさにするかということ。対して「ピクセル」はデジタル画像において正方形の格子をどの程度の大きさにするかを示す言葉。だから、Web媒体のデザイナーが画像を扱うときは「72ppi」と言うし、印刷会社が印刷に必要な解像度を聞かれれば「350dpi」となる。アウトプットの方法によって使い分けが必要な言葉だ(といっても、現在は当たり前のように「dpi」と場面を問わずに使われているので、それほど気を遣う必要はないだろう)。
レイヤー機能とカラーマネージメント機能の搭載
さて、余談が長くなってしまったが、Adobe Photoshopの長い歴史の中でもポイントとなるバージョンと機能がいくつかある。
まず1つめは、1994年に発売されたAdobe Photoshop 3.0。レイヤー機能が搭載され、現在のAdobe Photoshopの原型ともなったバージョンだ。
そして2つめが1998年に発売されたAdobe Photoshop 5.0(この後、Adobe ImageReadyが同梱された「5.5」が発売される)。ここで初めてICCプロファイルによるカラー管理方法が登場した。それまでのAdobe Photoshopは、「Adobeガンマ」を使ってディスプレイ表示を調整していたが、保存は素の状態だった。すなわち、データをやり取りするときは常に相手の環境に依存する状態だったわけだ。
ICCプロファイルを使用するということは、キャリブレートされたディスプレイ環境があることを前提に、「自分が作られた環境の情報」を画像自身が持ち歩くことを指す。たとえまったく異なる環境でも、正しく色を評価できるというのがそのメリットだ。
とはいえ、ICCプロファイルの扱いに不慣れだったリリース当時は、印刷物制作に関わる川上から川下まであらゆる場所で大混乱を引き起こした。その経験のまま今日まで来ている現場では、今でも「画像へのプロファイル埋め込みはお断り」とハッキリ言うほどだ。
正しく使えばそれだけメリットが得られるこの環境。なぜそこまで混乱を呼んだのだろうか。それは、ファイルのオープンから保存まで、常にICCプロファイルを意識しなければならなかったからだ。さらに言えば、RGB→CMYKへの分解方法も高度な製版知識が必要だったものが、Adobe Photoshop 5.0以降ではCMYKプロファイルを指定して変換するという方法がメインになったことが挙げられる。
素人的にはJapan Colorのようなオフセット印刷基準のプロファイルを使えば手軽にRGB→CMYK変換ができるようになったのだが、プロの現場ではそれに準じないカスタマイズされた色を作りにくくなったととまどいが広がった。
ICCプロファイルとカラーマネージメントについて各媒体で大きく取り上げられるようになったのも、Adobe Photoshop 5のリリースがきっかけになったと言っても大げさではない。
すぐに活用できる“デジタル画像編集の最先端”
そして2004年。アドビ システムズは他のアプリケーションと同様にAdobe Photoshop CSを発売する。ここで「Camera Rawプラグイン」が同梱され、デジタルカメラで撮影されたRAWデータを直接開くことができるようになった、また、Adobe Illustratorのヴィーナスと同じくおなじみの「目」が消えてしまったことを懐かしく思う古参ファンも多いだろう。
WebやHDRなどあらゆる画像&映像の世界を取り込んで進化してきたAdobe Photoshop。現在のAdobe Photoshop CS4では、さらに基本機能である色調補正はより簡単にインテリジェンスに、エフェクト的なレタッチは小ステップに、よりオリジナル画像に負担を掛けない作業を実現している。
まだ新しいバージョンを試したことがないという読者はぜひ、体験版などでその進化を体感して欲しい。