何故XilinxはARMを選んだのか

XilinxとARMは11月20日、パシフィコ横浜で開催されている「Embedded Technology 2009/組込み総合技術展(ET 2009)」において、両社が10月19日(米国時間)に締結した提携の概要に関する説明会を開催した。

ザイリンクスの代表取締役社長であるSam Rogan氏

Xilinxの日本法人であるザイリンクスの代表取締役社長のSam Rogan氏は、「ムーアの法則はまだ続いており、プロセスは微細化され、搭載されるトランジスタ数が増加、結果として1チップ上に搭載される機能も増加することとなる。これは非常によりことだが、反面、エンジニアやシステムの開発者にとっては設計の複雑さが増しつつ設計期間を抑えるよう要求が出される。しかも、設計コストも抑える要求も併せて出されるため、非常に負担が増していることも事実」とムーアの法則の進展により、人的負担が増えていることを指摘した。

また、ASICの開発コストにも触れ、「65nmや45nmプロセスでは1つのデバイスあたり開発から製造までのトータルコストを勘案すると1億ドル程度とも言われるのが実情。それをデバイスに添加し、ペイできるのは市場として500~1000億円規模が無ければ難しい」と指摘、結果としてこれまで数万個でもASIC/ASSPが市場として形成できたものが、徐々に数十万、数百万の領域に移行しており、限られた分野のみのサポートになりつつあるとする。

ムーアの法則により高性能になるため、デバイス開発者やシステム開発側の負担は増大する

Xilinxが良く見せるグラフだが、ASIC/ASSPの開発コストが高くなることで適用市場が狭まり、結果としてFPGAとASIC/ASSPの間に挟まれる分野が隙間のように生み出されることとなる

「FPGAの1つの役割として、ASIC/ASSPの開発現場での活用があるが、さまざまな機能をFPGAが単体で実現できるようになってきた。結果として何が起きているかというと、Xilinxの売り上げ比率を見てもらえば分かるが、かつての中心であった通信分野の比率が減り、その分さまざまな分野の比率が向上している。これは、FPGAの適用分野の拡大の証拠である」(同)とする。

こうした動きが何を意味するかというと、従来のシステムでは、FPGAはASIC/ASSPの補助デバイスとして、基板の周辺に置かれ、ネットワークインタフェースや専門処理用途などに用いられてきた。しかし、「今はFPGAが基板の中心に置かれ、それを起点としてシステムが組まれるようになってきた。すでに通信分野ではLTEなどを含めてそうした動きは顕著だが、こうしたASIC/ASSPの代わりとして活躍するためには、それ相応のプロセッサが必要になる。そこで我々が選択したのはARMのプロセッサコアであった」(同)と、XilinxがARMを選択したことについての意味を説明。日本としては、「民生」「産業機器」「医療」の分野でこの提携を生かしていきたいとした。

ベースがFPGAなどのハードウェアで、ドメインがプロセッシングやDSP、コネクティビティといった分野(ARMはここに適用される)、さらにその上に通信や産業機器といった特定アプリケーションに特化したIPやツールが加わり、カスタマはその上の付加価値部分の開発が可能になるという仕組み

単なるCPUコアの提供だけではない両社の提携

ARMとXilinxの提携は、単にARMのCortexコアがXilinxのFPGAに搭載される、という話ではない。確かにハードマクロとしてFPGAに搭載されるため、ユーザはARMとの契約やライセンス料の支払いといった手続きをしないで済むという魅力もあり、その点についてRogan氏は「詳細はまだ話せないが、コンセプトとしてはFPGAの中心としてARMコアが存在し、その周りにI/Oなどの機能が搭載されるという形になる」と説明しており、加えて「どういったコアが入るかは具体的には示せないが、すべてのアプリケーション分野をカバーできるようになるはず」(同)と含みを持たせている。だが、こうしたどういったコアが提供されるのか以上に、この提携ではARMの提供するオンチップバス「AMBA(Advanced Microcontroller Bus Architecture)」の次世代版をFPGA向けに拡張および最適化に向け共同で開発を行う点にある。

これについてRogan氏は、「今の半導体業界での問題の1つとして、例えばSpartan-3とSpartan-6、Virtex-5とVirtex-6という世代の隔たりができると、新しい世代用にIPを開発する必要が出てくる。IP-XACTなどの取り組みもあるが、我々はこうした動きに対応するプラグアンドプレイでIPを活用できる"ソケッタブルIP"を目指しており、これにより、各世代ごとのIP開発を不要にしようとしている。今後は、次世代AMBA AXI(Advanced eXtensible. Interface)に沿ったIPを開発することで、よりIP同士の組み合わせによるレイアウトの煩雑化などを抑えることが可能になる」と解説する。

次世代AMBAとFPGAが組み合わさった場合の構成例

これにより、ARMのフィジカルIPを含めてIPの選択肢の増加、連携のしやすさが向上するほか、「EDAベンダや他のIPプロバイダもARMとXilinx双方をサポートしているメーカーが多く、近いうちにそうしたメーカーからも双方に対応したソリューションが登場する見込みで、エコシステム全体として開発の容易さが増すはず」(同)とする。

XilinxとARM双方に対応するツールやIPの提供を行っているメーカー各社

アームの代表取締役社長である西嶋貴史氏

こうした流れについて、ARMの日本法人あるアームの代表取締役社長である西嶋貴史氏は、「XilinxとARMの間には、開発リソースの低減などに向けた共通の認識があり、そうした点がもととなり、一歩踏み込んだ提携となった」と説明する。

特に組み込み分野では、「片手で数えられるくらいのCPUアーキテクチャしか存在感がない。中でもARMは年間30~40億個の搭載デバイスが出荷される。しかし、そうした多くはASIC/ASSPであり、そういった意味ではXilinxが狙っているASIC/ASSPがより多量のマーケットにシフトして取り残された中間層をFPGAとARMコアで補完することで、デバイスの出荷台数は40億個から50億個、そして60億個と増えていくことを期待している」とし、AMBA AXIについても、次世代版以降については多くのパートナーを募りより広範なエコシステムを作り上げて行ければとした。

ARMコアを搭載したデバイスの出荷台数推移

なお、Xilinxでは2010年上期中に同提携に関する何らかの発表ができるものとしている。