今回お話を伺ったトニー・ヘイ氏

マイクロソフトは、日本において「Mt. Fuji Plan」と呼ばれるマイクロソフトリサーチアカデミック連携プログラムを実施すると発表した。今後、3年間に渡り、数百万ドルを投資。日本の大学/研究機関との連携によって、共同研究、人材育成、学術交流、カリキュラム開発などを行う。マイクロソフトはこうした取り組みを全世界で展開しており、その連携において、マイクロソフト側で中心的役割を果たすのが、マイクロソフトリサーチ エクスターナル リサーチ担当コーポレート バイスプレジデントのトニー・ヘイ(Tony Hey)氏である。同氏は世界各国の研究組織との連携ならびに技術計算分野の戦略策定に関する、マイクロソフト全体の指揮を執っている。同社の研究開発分野における学術機関との連携への取り組みなどについて聞いた。

--マイクロソフトは、なぜ大学との連携に力を注いでいるのでしょうか。

マイクロソフトリサーチの活動において大学との連携は重要な取り組みだといえます。一番の理由はマイクロソフトリサーチのコンピュータサイエンティストは、スマートな人たちとの連携、ベストな大学とのコラボレーションを求めている。一方、全世界において社会的問題となっている「環境」「健康」「衛生」などを解決するために、これらを研究する他の分野の科学者の手助けを、コンピュータサイエンス、あるいはe-サイエンスという立場から行っていきたい。そのためにはアカデミックとの連携は不可欠です。

--アカデミックとの連携という点では、他のIT企業も行っています。マイクロソフトならではの連携とはどんな点でしょうか。

私自身、30年間に渡り、大学教授の経験があり、また、工学部の学部長をしていたときにはさまざまな私企業と連携した経験もある。言い換えれば、大学自身がどんなことを求めているのかがよくわかるのです。

私企業と大学との連携においては、お互いにバランスが取れた契約内容とすることが大切です。たとえば、マイクロソフトは、2005年から国立大学法人東京工業大学(東工大)と、コンピュータクラスタを利用するハイパフォーマンスコンピューティングの実装検証プロジェクトを実施してきました。この共同プロジェクトでは、マイクロソフトは研究資金を提供し、大学はその資金を活用して研究を行い、そして、完成した技術に関する知財はすべて大学側が持つことになり、マイクロソフトはその技術を無償で活用できる。だが、この契約は排他的なものではないため、大学側は、マイクロソフト以外の企業ともライセンスを結ぶことができる。また、マイクロソフトがこの技術を独占したいという場合には、改めて大学と契約を結ぶ必要があり、これに対して、大学側は拒否することもできる。こうした明確な仕組みを提供している点が特徴です。

--大学側に優位な契約内容になっている感じもしますが。

いや、マイクロソフトにとってみても、その技術を無料で活用できますから、大学側だけにメリットがあるというものではありません。バランスがとれた、公正な契約だといえます。一方で、もっと小規模な助成金については、資金を提供するだけであり、大学側は自由に出版したり、ライセンス展開することが可能です。

--日本では、東工大との連携をはじめ、4年前から各大学との連携を図っていますね。どんな成果が出ていますか。

研究に関するプロジェクトは、いつも期待通りに行かないのが常ですが(笑)、日本における連携成果は目に見える形の成果として、満足できるレベルに到達しています。たとえば、東工大との成果は、e-Heritage(デジタル世界遺産)として、カンボジアにある寺院の風景を、高速なレンダリングによって再現できる。現時点では、カンボジアの遺産を対象としたものですが、これは日本のさまざまな文化財にも反映することができるでしょう。また、生物学における分子の結合に関する計算でも成果を発揮している。たんぱく質の分子同士の結合計算を、スーパーコンピュータで行うよりも短時間で計算できる。多くの人たちが、より低いコストで、この技術利用できるようにしたいと考えています。こうした研究成果は、IT産業だけではなかなか取り組めない。大学機関などと連携することで成果に辿り着くことができるのです。