ユーザーインタフェース(UI)へのフォーカス、Web/端末のコンバージェンスなど、トレンドの推移とともに開発者を取り巻く環境が大きく動いている。フィンランドNokia傘下のクロスプラットフォームのUI/アプリケーション開発フレームワーク「Qt」は、これに対応すべく、さまざまな機能を加えてきた。

10月、Qt Development Frameworkがドイツ・ミュンヘンで開催した「Qt Developer Days 2009」で、同社の研究開発担当ディレクター Lars Knoll氏、グローバルセールス・マーケティング・サービス担当ディレクター Daniel Kihlberg氏の両氏に今後の方向性や戦略について話を聞いた。

Nokiaは2008年に「Qt」を開発するノルウェーTrolltechを買収、現在、Qt Development FrameworkとしてTrolltechのQt事業を引き継いでいる。

お話を伺ったLars Knoll氏(右)とDaniel Kihlberg氏。Knoll氏は「WebKit」の起源であるKHTMLプロジェクトの創始者でもある

--Nokiaの買収で何が変わりましたか? 顧客や開発者との関係は?

Kihlberg氏: 変わったと思います。2008年に買収されたとき、最初の反応は必ずしもよいものではなく、Qtの将来に不安があったようです。我々が戦略を進めるにつれ、Nokiaが当初の約束を守っていることが実証されました。現在の反応はとてもよいものと思います。Qtは大きなバックが付き、開発者も増えました。

今年3月にQt 4.5を公開した際にLGPLオプションを加えましたが、この影響ももちろんあります。

--今年のDevDaysではQML(Qt Markup Language)を発表しました。QMLが意味すること、狙いは何ですか?

Knoll氏: 背景から説明しましょう。1つ目として、既存のユーザーインタフェースにパラダイムシフトが起こっています。この動きは、モバイル、消費者家電で始まっており、PCにも及ぼうとしています。ユーザーはこれまでとは違うもの、新しいものを求めています。我々のクロスプラットフォーム製品でも、アニメーションなどのニーズが高まっています。また、端末のコンバージェンスが起こっており、さまざまな端末をどうやって同期するか、データを共有するかという問題もあります。

2つ目が、どうやってUIが開発されるのか、ここでの課題です。現在、デザイナーがFlashなどでモックアップを作り、これを開発者がC++というまったく違う技術を使って実装しています。2者の間には大きなギャップがあります。2つの世界を1つにすることで、作業を大幅に短縮できるでしょう。

QMLは、なめらかなUIを容易に開発すること、デザイナーが開発プロセスに参加できることを目標としてスタートしました。もちろん、Qtの既存のコア技術と密に統合しており、Qtのパワーはそのままです。

社内で使ってみたところ、デザイナーと開発者の評判はよく、あらゆる開発者にとって興味深い技術だと自負しています。QMLは現在プロジェクト段階ですが、これをダウンロードして、車載システム用のUIを作った企業もあります。

QMLはQt 4.7で搭載を目指して開発を進めていますが、ロードマップはまだ確定していません。フィードバックを見ながら進めていきます。

Kihlberg氏: QMLは、業界のフォーカスと言う意味でも重要な技術です。Qtはさまざまな業界で使われていますが、中でも自動車、消費者家電/ホームメディアをコアの業界として位置づけています。このほか、ハリウッドの映画企業がエフェクトで利用している例もあります。

--デザイナーと開発者のコラボレーションは、米Adobe Systemsなど、他のツールベンダも目指しています。Qtの差別化は何ですか?

Knoll氏: たとえばAdobe Flexと比べると、QMLはネイティブ開発の統合レベルが高く、高度な機能を実現できます。QMLは開発が容易になる上、Qtとの密な統合によりQtのパワーを利用できます。

我々はTrolltech創業時より常に、「開発を容易にする」を目指しています。他のツールから乗り換えたユーザーも多く、容易、直感的などの評価を受けています。作業の90%は容易に、残りの10%は可能性を残す、これが私の考えです。

--開発が容易になることで、負の作用はないのでしょうか?

Knoll氏: 容易にすると、性能や機能が劣るという人もいますが、そうとは限りません。Qtは拡張性と柔軟性に富みます。ハイレベルなAPIを使って容易に迅速に実装してもいいし、深いレベルで難しいAPIを使って複雑な部分に対応することもできます。