欧州委員会(EC)は11月9日(現地時間)、米Oracleが米Sun Microsystemsに対して行っている74億ドルでの買収提案について、独占禁止法の観点から問題があると正式に発表した。今後の展開について、動向を分析してみよう。

長期戦で削られ続けるSunの体力

あくまで強気の姿勢を崩さないOracle CEOのLarry Ellison氏

両社の合併については、米司法省(DOJ)が今年8月に正式にゴーサインを出している。今回のECによる裁定は買収完了までの最終関門とも呼べるもので、データベース市場でのシェアを理由に欧州が合併に反対または条件付きで認定してくるという話は、前々より噂されていた。これが改めて正式発表されたことになる。

とはいえ、これが即両社の合併破談につながるというわけではなく、Oracleには今回のECの判断に対して反論するチャンスが与えられる。米Wall Street Journalによれば、ECは最終的な判断を1月19日に行う予定で、これまでに買収が独占禁止法に抵触しないことを示さなければならない。またこの期限を過ぎても、OracleにはECとの交渉を続ける、あるいは2億6000万ドルの契約解消金を支払って買収を諦めるという選択肢がある。ただし、ECとの交渉を継続する場合は長期戦を覚悟しなければならず、交渉は最大で今後数年に及ぶ可能性がある。それまで買収完了は延期されることになる。一方の買収を諦めるという選択肢は、現状でOracleは選択するつもりはないようだ。

買収交渉が長引くことのデメリットは、買収のための費用がかさむ以外に、Sunの顧客離れを誘発する点にある。たとえば11月初旬に発表された直近の四半期決算では、Sunの売上は25%減少し、サーバは台数ベースで-41%、売上ベースでは-33%と大幅の減少を見せている。MySQLを含む既存のユーザーもOracle体制に不安を抱いているケースが多いといわれ、米Oracle CEOのLarry Ellison氏はOracle OpenWorld 2009の会場で聴衆を前にOracleは既存の製品ラインの維持と、研究開発投資を従来比倍に引き上げることを約束した。このように、交渉が長引くほどSunの体力が削られ続ける結果となり、最悪のケースでは買収完了までに資産切り売りを含む何らかの譲歩策を検討しなければならなくなるかもしれない。

買収反対の争点

今回の買収反対について、ECはMySQLの存在を理由に挙げている。商用RDBMSの最大シェアはOracle DBが握っており、MySQLはオープンソースがベースの安価な代替手段になり得る。つまりRDBMSの世界では、2つの異なるセグメントのシェアトップをOracleとMySQLが占めており、これが両方ともOracleの手に入ることで公正な競争を阻害するというのだ。だがOracleではすぐに反論を出しており、MySQLはオープンソースゆえにOracleが制御できるものではなく、異なる性質の製品であることを強調。決して競争を阻害するものではないと主張する。DOJもECの決定に対してすぐに声明を出しており、DOJの買収承認判断に問題はないとし、EC側に対して働きかけを行っていくことを表明する。

興味深いのは、Sunの買収を巡ってはつねに独占禁止法の話題がつきまとっていることだ。たとえば、Oracle以前にSun買収に向けてIBMが交渉を進めていた際、IBMとSunが合併することでUNIXサーバのシェアが7割を超えてしまい、ECはおろか、DOJからも独占禁止法で買収にストップがかかる可能性が指摘されていた。IBMのケースでは買収金額で合意できないというそれ以前の問題もあったわけだが、買収成立の可能性は限りなく低いというのが定説だった。ほかに買収候補として挙がっていたHewlett-Packard (HP)やDellなども、同様の問題に引っかかる可能性があり、ハードウェアベンダとの交渉が難航するのがSun買収の一種のお約束みたいなものである。

翻ってOracleのケースでは、オープンソースのソフトウェアの扱いが問題となった。Applications Unlimitedを標榜するOracleがすぐにMySQLを潰しにかかる可能性は低かったが、MySQLコアメンバー離脱(「MySQL創業者がSunを退社へ」「MySQL創業者に続き、同社元CEOもSunを退社へ」 )やコミュニティ側からのスピンオフ要請のように、Oracle (あるいはSun Microsystemsそのもの)に対して不信感を抱く開発者は少なくなく、仮に買収が完了したとしてもOracleはこれら資産の扱いに苦慮することだろう。

このように、Sunの製品ポートフォリオが中途半端に広いことが、どのベンダにとっても同社の扱いを難しくしているといえる。Oracleはすべての資産をそのまま活用していくと表明していくが、買収が完了する、あるいは買収のための条件見直しを迫られた場合、改めてポートフォリオの整理について考えなければならないかもしれない。特にハードウェアの既存顧客、そしてオープンソースコミュニティとの関係を再考するうえで、向き合うべき課題が多いからだ。