Tooが開催したアニメ制作ワークフローセミナー『「進化し続けるヱヴァンゲリヲン新劇場版をささえるスタジオカラーの特撮CG/VFX」~ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破 メイキング』。このセミナーには、同作品のCGIプロデューサーである瓶子修一氏、CGI監督の鬼塚大輔氏と小林浩康氏の3名が登壇した。映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の映像制作にはどのようなツールが使われたのだろうか。
同講演では、まず映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の映像に関するデータを紹介。具体的なカット数は明かせないが、総カット数のうち、約半分以上がCGによるカットとのこと。さらに、劇中では使われないが、作画を補助にするために制作する"ガイド"と呼ばれるものも3DCGで作られており、これを含めると3DCGのカット数はさらに増えることになる。そのほか、CGカットはリテイクも多かったとのことで、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の持つ完成度は高さは、何度も繰り返された試行錯誤により練り上げられたものであることが伺えた。
これらのCG制作に使われたメインツールが「Autodesk 3ds Max 2008」、「Autodesk 3ds Max 2009」。64bit版の登場もあって、映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のDVD制作あたりから一気にAutodesk 3ds Max 2009へ更新していったそうだ。様々なスタジオに制作を依頼するにあたり、最新バージョンのソフトの使用はツールの互換性も重要となるところだが、レンダリング管理機能の一部でトラブルはあったものの、それ以外はとてもスムーズに行えたという。
また、同作品ではプラグインとしてセル画調プラグインシェーダーの「Pencil」をはじめ、「finalToon」、「Illustrate!」、キャラクタアニメーション制御の「CAT Plug-in Extension」、爆発や煙を生成するダイナミクス系プラグインの「AfterBurn」と「FumeFX」なども使われている。シェーダーについては、マテリアル管理のしやすさ、他シェーダーからのコンバート機能が追加されたことなどから、今後はPencilのみに移行していく予定だという。
そのほか、具体的な映像制作時の話として、仮設5号機の走行シーンを制作する際に、ある程度テイクが進んだ時期に海洋堂のフィギュアシリーズ「リボルテック」の原型見本が届き、それにより、四本足を動かすアクションを検討したというエピソードを明かした。
ちなみに、同作の観客動員数・興行収入は10月上旬の時点で270万人・38億円を超えている。なお、昨年日本で公開された映画806本(邦画・洋画含む)のうち、興行収入30億円をこえたのはわずか17本だ。
講演全体を通じて、同作品は最初からイメージされた通りの"決め打ち"による物作りとはほぼ無縁であるという印象を受けた。効率を優先した制作環境であれば、この手法は非常に非効率だと言えるが、このやり方はイメージ以上の作品が出来上がる可能性を排除しないやり方でもある。映画『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を支える制作現場は、最先端の制作環境でマシンを常に高効率で稼働させるシステマティックなものではなく、最先端の制作環境と制作陣の高い技術力が見事に融合したものだったといえるだろう。
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