第1回となる前回は、現在のクリエイティブワークの中でアドビ システムズが果たしてきた役割を、革新的な技術であった「PostScript」の歴史と合わせて紹介した。

とはいってもPostScript技術はいわば「出力」に関わる技術で、デザインに関わるクリエイターにとっては少し難しかったかもしれない。第2回となる今回は、日本語DTPの中でも重要な位置を占める「レイアウトソフト」の歴史について紐解いてみよう。ロングキャリアをもつ読者には、当時を懐かしく思い出されるのではないだろうか。


日本語フォントとレイアウトソフト

日本語DTPという言葉が現実的になったのは、今から20年前のこと。前回の連載でも紹介した「日本語デジタルフォント」が登場したときだ。

当時登場したのがモリサワの「リュウミンL-KL」と「中ゴシックBBB」。それまでMacintosh環境で日本語フォントといえばTrueTypeフォントの「Osaka」くらいで、高解像度出力には不向きだったのが、MacintoshにインストールするフォントとプリンタのRIPにインストールするプリンタフォントの2種類が揃ったことでフォントのバリエーションは少ないながらも印刷用データの作成が行えるようになった。

そのころのレイアウトソフトは、欧米で発売されていた製品をローカライズしたものがほとんど。1985年に登場した「Aldus PageMaker」がその最初と言われている。DTPの基本概念である「WYSIWYG環境」(What You See Is What You Get=あなたが見たものはあなたが得る物)を実現し、まるで版下をディスプレイ上に再現したようなインタフェースで写真やイラストを配置し、文字を打ち、出力できるようになった。

日本語版が発売されたのも早く、PostScriptフォントと同じ時期の1998年。続けてクォークジャパンから「QuarkXPress 2.0J」が発売され、レイアウトソフトの2大巨頭として活用されるようになる。

この2つのレイアウトソフトはともに欧米製であったため、それまで電算写植で文字を組み上げてきたクリエイターにとって大きな発想の転換を迫られることになった。現在では当たり前のように使われている「ジャスティファイ」という組み方も、当時のデザイナーにとっては理解しがたいことだったろう。

これは、日本語と欧文のタイプフェイスデザインの違いによる。日本語の文字は正方形を基準としてデザインされるため、1行に何文字流すかによってボックスの大きさは計算できる。しかし、欧文の場合は文字の幅が不均一なため、箱組みが難しい。そもそも欧文の場合、左揃えで組むのが一般的なので、ボックスの両端で文字を揃えるという発想がなかったわけだ。

そのため、多くのデザイナーはこれまでの日本語組版を踏襲するために文字設定・段落設定を駆使したり、エクステンションやプラグインなどを利用して従来の方法を守ってきた。

この日本語組版に対する不満はさらに10年後、Adobe InDesign日本語版の登場まで引きずることになる。


Adobe InDesignの登場

日本語DTP環境が大きく変わったのは、1999年の「Adobe InDesign日本語版」登場がきっかけになったと言っても過言ではないだろう。すでにAldus PageMakerは開発元のアルダス社をアドビ システムズ社が買収したことで「Adobe PageMaker」に生まれ変わっていて、デザインの分野だけでなくビジネスの現場でも広く使われるようになっていた。

Adobe PageMakerのバージョンアップと合わせて進められたAdobe InDesignの開発。このコンセプトは「日本語に強いレイアウトソフトを作る」というものであったという。

そのコンセプト通り、1999年に登場したAdobe InDesign 1.0日本語版は、日本語組版の教本的指針である「JIS X 4051」(日本語文書の組版方法)に基づいた初期設定を搭載し、和文デジタルフォントの全角文字をベースにした組版機能を搭載した。さらに、OpenTypeフォントやMac OS X環境へのいち早い対応も普及に大きな弾みを付けた。当時QuarkXPressはMac OS X版を発売しておらず、また、起動にはハードウェアキーが必要であった。その点もAdobe InDesignへの移行を促した大きな要因のひとつになったのではないだろうか(現在のQuarkXPress 8日本語版では、フォント環境や透明機能、レイヤー機能などおおよその機能はAdobe InDesignと遜色のない物になっている)。

1999年の発売当初はMac OS 9環境だったAdobe InDesign。Mac OS X v10.0がリリースされた2001年なると、バージョンアップしたAdobe InDesign 1.5日本語版が発売される。バージョン3.0ではAdobe Creative Suiteが登場。一つのスイート製品の中にAdobe InDesign、Adobe Illustrator、Adobe PhotoshopなどDTP制作に必要なソフトウェアがパッケージされた。また、昨年末に発売が開始された最新版のAdobe InDesign CS4日本語版では、Adobe Flashへの書き出しをサポートするなど、クロスメディア化が進められている。

なお、Adobe PageMakerは最新バージョン「7.0」で、現在も販売継続中。こちらは、主にビジネスの現場で高度なレイアウトツールとして利用されているという。