デジタルハリウッド大学は、映画『ATOM』の製作を担当したマリアン・ガーガー氏と製作総指揮をとったフランシス・カオ氏を招き、特別講義「あの名作が現代によみがえる ハリウッド版 映画『ATOM』のすべて」を開催した。

手塚治虫原作の「鉄腕アトム」は、1952年よりマンガ誌「少年」で連載され、1963年には日本初の長編テレビアニメシリーズになった不朽の名作。この作品のフルCG映画化に挑んだのが、香港とロサンゼルスに拠点を置くアニメーション制作会社「イマジ・スタジオ」だ。同社は、これまでに映画『ミュータント・タートルズ -TMNT-』(2007年)などを手がけており、そこで培ってきたCG技術を駆使し、手塚治虫の原作のストーリーとキャラクターを、より立体的に迫力ある映像に仕上げていったという。

左から製作総指揮のフランシス・カオ氏、通訳、製作を担当したマリアン・ガーガー氏

アトムの誕生から、父親としての存在であるテンマ博士との親子愛、アトムが背負う運命までを描いたフルCG映画『ATOM』。通常ハリウッドのフルCG作品は、制作に3年~5年かかるが、同作品は異例ともいうべき19カ月という短期間で制作された作品だ。

映画『ATOM』は、アニメーション制作会社「イマジ・スタジオ」と、手塚プロダクションがタッグを組んで生まれたフルCGアニメのアクションアドベンチャーだ

イマジ・スタジオの創設者でクリエイティブ部門を取り仕切るフランシス・カオ氏は、漫画「鉄腕アトム」を同社で映画化するに至った経緯について「2003年の段階では、ソニーが漫画『鉄腕アトム』のCG映画化を考えていました。制作現場を見させてもらったのですが、原作に忠実でない点などが気になってしまいました。その後、ソニーが制作から手を引いたという知らせを受け、東京の手塚プロダクションに飛び、『我々はたくさんの日本のアニメを見て育っています。また西洋と東洋の映画のいい部分が融合する場所でもあるのです。香港が"CG版アストロボーイ"をつくる最適な場所ではないでしょうか』とアピールしました」と語った。

同作品で製作を担当したマリアン・ガーガー氏は、ドリームワークスの14番目の社員だった人物。これまでプロダクションスーパーバイザー、プロダクションマネージャーなどを経験している。マリアン氏は、漫画「鉄腕アトム」を映画化するにあたり、ストーリーの軸を"父親と息子の関係"に定め、感情に訴えるストーリーを展開しつつ、スペクタクルやアクションといった要素を加えていった。これらのストーリー制作には、手塚プロダクションも協力しているとのこと。アトムのキャラクターづくりについては、「劇場で皆さんに観てもらうアトムの姿になるまで、手塚プロダクションの方々といろいろと相談しながら様々なバージョンのアトムを制作しました。この制作に関して我々は、まず日本人が直感的にアトムだとわかる顔にしなければならないという想いがありました。なおかつ"世界に受け入れられる顔"にもしなければならないという使命もあり、こうした条件が重なったことにより、顔づくりには多くの時間を要したのです」と説明した。

最初に制作したアトムの顔は、年を取りすぎた顔になってしまい、変更を余儀なくされたとのこと

さらに、ビデオ映像で同作品の監督のデビッド・バワーズが登場。映画『ATOM』が原作のリメイクになってしまわないことや、手塚氏が原作のなかで作り上げた圧倒的な世界観をどうやって3D映像で表現するかということ、などに注力しながら制作していったことを明かした。

講演の最後に、本講演に同席していた手塚プロダクション著作権事業局局長の清水義裕氏は、「この映画はとてもいい作品に仕上がりました。『顔が違う』、『形が違う』といった部分が話題になっていますが、作品を見ていただければ、手塚の精神が立派に残っている作品になっていることがわかっていただけると思います」とコメントした。

一番右は、手塚プロダクション著作権事業局局長の清水義裕氏。映画『ATOM』の公式サイトはこちら

今後、ハリウッドでは日本の名作と呼ばれている漫画やアニメ作品がいくつも劇場公開予定となっている。フランシス氏がこれから手がけている作品のなかにも、タツノコプロが制作したSFアニメ「ガッチャマン」も含まれているという。フランシス氏は「フルCG版ガッチャマンは2012年ごろに劇場公開したいと考えています。今は日本のアニメを中心にCG化に取り組んでいますが、今後は西洋と東洋の文化を融合させたアニメのなかに、中国・香港のテイストを加えたオリジナルのキャラクターを創造していきたい」と語った。

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