東京都立中央図書館で開催中の「文字・活字文化の日」記念企画展示「文字は文明の乗り物 - 時空を超えて情報を伝える」では、第3期目となる「5.印刷機が起こした革命」「6.これも文字? 絵文字とデザイン」をテーマに10月19日まで展示が行われている。
印刷機が起こした革命
まずは入口正面に置かれたグーテンベルクの聖書。これは1期から会場に展示されていたが、今回は正に主役の座。活版印刷の発明は現代へ至る情報社会の歴史における最初の事件でもあった。
続いて、活版印刷技術の普及とともにヨーロッパでどのようなものが出版されたのか、その歴史をたどる資料が置かれている。
イギリス、ジェームズ1世の命令で翻訳された英語の聖書「The Holy Bible」。ローマから分かれた後の英国国教会において用いられた唯一の公式英訳聖書 |
こちらはギリシア語の聖書「Novum instrumentum」。活版印刷の普及により、聖書は様々な言語に翻訳され、出版されていった |
さらに、宗教的な教えだけでなく科学的な知識・理論なども「本」の形で伝えられた。ガリレオが初めて望遠鏡を使って天体観測を行ったとされる1609年は、活版印刷の発明から約150年が経った頃となる。
ガリレオが月のクレーターや天の川などの観察記録をまとめた「Sidereus nuncius(星界の報告)」 |
こちらの2冊は、ガリレオと同時代に活躍したケプラーが惑星の運動に関する法則を記したもの |
「プリンシピア(プリンキピア)」という略称で知られるニュートンの著作。こちらは複製だが、同館でオリジナルも所有しているという |
これらの本はそれぞれ現代の日本語訳版も併せて展示されている。科学の歴史を変えた知識が、数百年経った今でも"本"の形で人々に影響を与える物として存在していることが実感できる。
一方、日本においてはローマへ派遣された天正遣欧少年使節が1590年に帰国する際、印刷機を持ち帰り、日本最初の活版印刷が行われた。
日本において本格的に活版印刷が普及するのは明治以降となる。日本語は文字数が多いことや書き続けの線があることから、木版による印刷が広く行われていたそうだ。
これも文字? 絵文字とデザイン
文字はその視覚的要素において、古今東西多くの人がその創意工夫、クリエイティビティ、遊び心を注ぎ込む対象となってきた。日本では江戸町人文化の爛熟が、現在にまでそれを伝えている。
日本語以外の文字ついても、様々な資料からその装飾・デザイン的なセンスを伺うことができる。
韓国の文字絵。文字の形の中に精緻な絵が描かれている。文字には儒教道徳的な意図が見られる |
アルファベットのカリグラフィ。文字のプロポーションに合わせた曲線の装飾が美しい |
ロシア語の文字デザインの本。アルファベットと少し形が違うだけで、一風変わった印象が |
現代において、文字はデザインの要素として重要な役割を担っている。視覚に訴えるロゴデザインは、文字でありながら"読み"を越えてイメージを伝える力を持つ。逆に、ピクトグラムはグラフィックでありながら文字の持つ役割を果たしている。
この企画展では、世界の文字発祥から技術的、芸術的発展までを辿る様々な資料が、3期にわたって展示されてきた。これらの資料から、人間は文字を使って自らの歴史や思想を記録し、一方で文字によって新たな創造性や文化の発展を得てきたことがわかる。
10月27日の「文字・活字文化の日」には、展示期間中に人気の高かった資料が同館閲覧室にてアンコール展示される。また10月末からは、他では残っていない江戸時代の小説本や、重要文化財に指定されている江戸城の建築図など、貴重書の原本の企画展示が開催される予定だ。