富士通は、要件定義の課題を解決する「新要件定義手法」を確立し、今後は同社が手がける3億円以上のシステム開発に適用していくと発表した。
富士通 テクノロジーサポートグループ 副グループ長 常務理事 八野多加志氏は、要件定義での問題について「要件定義では、定義があいまいのまま思い込みで設計して開発し、あとで手戻りが発生する場合があった。今回開発した新要件定義手法は、、プロジェクトの失敗の原因となっている上流工程での問題を解決する体系的な手法を示したものだ」と述べた。
富士通 システム生産技術本部 SI生産革新統括部 統括部長代理 若杉賢治氏も、「要件定義の抜けは最終工程である評価や運用テスト段階までわからないため、要件定義以外に経営者やシステム部門の要求を取り込む機会がない」と語り、要件定義の重要性を強調した。
同社ではこれまでも、「要件定義の書き方ガイドライン」「要件定義進め方ガイドライン」「要件定義開始基準」「要件定義完了基準」などを作成し、設計の革新による要件定義の品質向上などに努めてきた。
ただ、これらは記述ルールなどを定めたもので、形式品質は高めることはできても、システムが当初想定していた経営上の目的に合致しているかといった、内容品質に関してはチェックできなかったという。
そこで同社では要件定義での課題として、要件の目的や要件を決めるべき役割の曖昧さの排除という「要件の品質」、経営層・業務部門・情報システム部門における納得性の高い合意形成という「合意形成の品質」、要件を洗練させ、十分な検討を経た上で期限内に確定させるマネジメントである「マネジメントの品質」の3点を根本的に解決するための3つの方法論を「新要件定義手法」として確立した。
3つの方法論とは、「要件の構造化」「因果関係からみた要件の可視化」「要件を成熟させるプロセス」の3つだ。
「要件の構造化」では、要件定義の役割を「経営の目的」、経営の目的を実現するための手段である「施策」、業務部門から要求である「業務要求」、業務要求を実現ための手段である「業務手段」、システムで実装する機能である「システム機能」の5つの階層に分け、ある事象がすべての階層の要件を満たしているかをチェックし、各階層でのヌケや漏れを防ぐ。
「因果関係からみた要件の可視化」では、5階層の上位の要件を実現するために必要な下位の要件がすべて定義されているかといった充分性や、下位の要件が貢献する上位の要件が定義されているかといった妥当性をチェックする。
例えば、「受注見込み情報の集計は10分以内で行う」という実現手段があった場合、それは経営の目的な業務要求に合っているかや、システムとして実現可能なのかなど、他の階層もチェックする。
また搭載すべき要件の優先順位を、効果、コスト、難易度、緊急度などで、予算や納期などを加味しながら、評価表を使いながら判断する。
「要件を成熟させるプロセス」では、要件定義のプロセスを経営層・業務部門・情報システム部門の間、関連する業務部門間、部門内の部門長・担当者間といった幅広い利害関係者間の調整を考慮した合意形成のための5つのフェーズ、12のタスクに分け、タスクごとに利害関係者間の合意形成を満遍なくとるための作業を定義。
そして、各タスク完了時に、各要件の検討度合いを38の評価軸で評価することにより、要件の内容がどこまで洗練できているかという要件の成熟度、適切なタイミングでの対策をとることによって、要件の確定にいたる過程をコントロールし、期限内に検討を収束させる。
同社では、今回開発した新手法を2010年度末までに、100プロジェクトを目標に採用し、顧客満足度の向上や後工程での手戻り予防につなげたい考えだ。
新手法の導入によって要件定義に要する工数が増えるのではないかという懸念に対し若杉氏は「要件定義の工数は増えるかもしれないが、それ以上の手戻りの工数を削減できる。最低でも現状維持だ」と、コスト削減効果への自信を示した。