国際電気通信連合(ITU)のカンファレンス「ITU Telecom World 2009」が本部のあるスイス・ジュネーブで10月5日に開幕した。通信技術は固定/モバイルともに普及し、情報技術とともに"ICT"として次世代インフラとなる中、その役割や立場も変わりつつある。今年のテーマは"Open Networks--Connected Minds"。会期中、次世代通信技術、グリーンICT、サイバーセキュリティなど広範なトピックスが議論される。

ITUは191カ国が加入する国連組織。無線周波数帯の割り当てなどを業務とし、標準化のITU-T、無線通信のITU-R、電気通信開発のITU-Dなどで構成される。ITU Telecomは通信業界のオリンピックともいわれる歴史あるイベントで、ジュネーブでの開催は2006年の香港以来、6年ぶりとなる。

ジュネーブのカンファレンスセンター Palexpoで開幕した「ITU Telecom World 2009」。2011年には40周年を迎えるイベントだ

1年前に発生した世界的な経済危機、モバイルでは「Mobile World Congress」など他のイベントが存在感を増す中、業界ではITU Telecomの位置づけは低くなっているとも指摘されている。今年の出展者は50カ国約450となり、2003年と比べると展示面積は縮小した。予想来場者も、2003年の半分以下の4万人だ。「10カ月前に、(ITU Telecomを)キャンセルすべきといわれたこともあった」とITUの事務総局長 Hamadoun Toure氏は明かす。それでも、国連事務総長の藩基文氏、約80人の大臣、400人以上のCレベル幹部が入っており、ITUの重要性を裏付ける。

藩基文氏、ルワンダのPaul Kagame大統領、中国移動通信(China Mobile)のCEO 王建宙氏が集まった初日のプレス発表会で、2007年に前任の内海善雄氏より引き継いだToure氏はICTの普及、経済回復に果たす役割など、ポジティブな側面を示すと同時に、デジタルデバイドなど課題も指摘した。その中でフォーカスしたのがセキュリティだ。

サイバーテロリズムなどサイバー空間を脅かす脅威は増強している。「サイバー空間では超大国は存在しない。市民一人ひとりが大きなパワーを持つ」とToure氏。「次の世界大戦はサイバー空間で起こる可能性もある。そうなると、大災害になる」と警告する。

そのような事態を防ぐため、「平和なサイバー空間を維持するよう関係者が協力することが不可欠だ」と呼びかける。そして年内にも、各国が市民を保護し、サイバーテロを持たず、攻撃を仕掛けないことで合意したいとした。

ITUはサイバーセキュリティ分野でいくつかの取り組みを進めているが、その1つが子どものインターネット利用だ。学校、家庭と子どもがインターネットに触れる機会は増えている。ITUでは、子どもとインターネットの安全性に関する最新のガイドライン「Child Online Protection」を策定中だ。「子どもは世界の資産。世界レベルでの取り組みが必要」とToure氏は強調し、理解を求めた。

国連事務総長の藩基文氏は、ICTの効率化、雇用促進などの効果とともに、気候変動などの問題を解決する手段としての役割にも期待を寄せる。先に米ニューヨーク州で開催された気候変動サミットで、日本、中国、欧州連合などが強いコミットを示したことを評価し、12月にコペンハーゲンで開かれる第15回締約国会議(COP15)を成功させたい、と強い期待を示した。

また、2000年に採択されたミレニアム開発目標(MDG)の達成時期、2015年が近づきつつあるが、これには「ICTのすべてのパワーと若い人々が必要」と述べた。

国連事務総長の藩基文氏

8月に加入者が5億人を突破した世界最大のモバイルオペレータである中国移動通信の王建宙氏は、自社ユーザーの利用形態が音声通話から多様化しつつあるトレンドを紹介した。3億人が音楽ダウンロードサービスを利用しており、4,000万人が新聞サービスを利用しているという。

環境問題を解決する技術としてのICTでは、"Internet of the things"を提案した。RFID、センサー、2次元バーコードなどの補完技術により、インターネットは、人と人、人と"Things"(モノ、マシン)、"Things"と"Things"がやりとりするコミュニケーションプラットフォームになりつつある。交通管理、製造プロセスモニタリングなどさまざまな適用例が考えられ、「電力消費とCO2排出の削減という2つのメリットをもたらす」と語った。

中国移動通信(China Mobile)のCEO、王建宙氏

ルワンダは、アフリカ諸国の中でも積極的にICTを活用していることで知られる国だ。ICTは教育、社会、ヘルスケア、ビジネスとさまざまな分野で効果が期待できるため、ルワンダでは国としてICTの重要性を認めているという。Kagame大統領は、2020年までに地域のコミュニケーションハブとなることを目指していると述べた。

Toure氏は途上国に対して、成長国による慈善活動を期待してはいけないと釘を刺す。世界不況はさまざまな分野に影響を与えたが、携帯電話の利用は減っていない。「ICTは耐久性と収益性のあるビジネス」とし、途上国と成長国がWin-Win関係を構築できるとした。

ルワンダのPaul Kagame大統領

ITUの事務総局長 Hamadoun Toure氏