日本総合研究所 調査部 ビジネス戦略研究センター所長 山田久氏

新型インフルエンザの流行などで企業の危機管理体制としてさらに注目されている"テレワーク"。9月24日、厚生労働省主催の「テレワーク・セミナー in 東京 ~新時代の働き方と導入上の留意点~」としたイベントが行われ、日本総合研究所 調査部 ビジネス戦略研究センター所長の山田久氏が「経済社会構造の変化が求めるテレワーク」と題した基調講演を行った。

政府は2010年までに就労者の2割までテレワーク人口を増やすことを目標に掲げている。山田氏は、こうした背景について"経済環境の変化"を第一に挙げる。「グローバル化で消費市場が世界の都市で同時化したり、商品サイクルは短縮化していることにより、市場は拡大した。しかし、それと同時に生産工程は国際分業となり、製造工程はアジアの他諸国に移行し、国内産業は脱工業化した。国内は知識産業化している」と分析する。また、もう2つ目の背景として"働き手側の変化"が挙げられるという。「今は景気の問題に目が向きがちだが、労働人口の減少に伴い、女性やシニア層の労働力が不可欠となるのは今後必至。働き手市場となるだけでなく、労働者の価値観も多様化してきているため、企業は人材確保には多様な働き方が求められるようになるだろう」

こうした環境変化が続く中、山田氏は労働力を維持する新たな働き方として"限定型社員"に目を向ける。同氏によると、限定型社員とは、いわば職務のモジュール化した就業スタイル。専門技術を持った人材が個人請負やスポット的に働くワークスタイルで、"インディペンデント・コントラクター"とも呼ばれている。山田氏は「インディペンデント・コントラクターと呼ばれる人たちは、40代が多く、学歴や年収が高い人たちが多い。企業との従属性が低い限定型社員はテレワークとの親和性も高く、すでに熟練した技術や経験を持つシニア層を中心にこれからはこうした働き方が広がっていくだろうが、制度としてどう作っていくかがテレワーク普及のカギとなるだろう」と話す。

また、山田氏は現在、労働時間の管理にも変化が起きていると指摘する。「伝統的工場労働は労働力投入量と成果は比例する。しかし、知識労働は労働量と成果は必ずしも比例しない。こうしたことから、裁量労働制、ホワイトカラーエクゼンプションの必然性が高まり、労働時間は自己で管理するという流れに向いてきている」。

しかし、一方で職務のモジュール化にあたっては多くの注意事項を残すのも事実だ。「人事の評価/報酬管理は、役割主義、成果主義に向かっているというのが現在の潮流だが、職務を細分化しすぎてチームワークが失われるという危険性もある。従来、日本的な仕事のやり方は、職務の範囲/権限を曖昧にしておいて、チーム全体で仕事を進めるという"擦り合わせ型"が中心。テレワークを行うには、職務/権限を明確にし、個人の自主性に任せて仕事を進める欧米式のモジュール型の仕事の進め方が必要だが、日本のよさもあるので単にモジュール化して機能的にすればいいというわけではない」と山田氏。

国土交通省が4月に発表した、2008年のテレワーク人口は15.2%。政府が策定した「テレワーク人口倍増アクションプラン」に基づき、目標の20%に向けて順調に推移しているように見える。しかし、この実態を山田氏は「増加傾向にあるが、玉石混合が実態」と指摘する。というのも、テレワークは、雇用者が自宅で就業する"在宅勤務型"、雇用者が勤務地以外の外出先で仕事する"モバイルワーク型"、自営業者の"在宅ワーク型"の3つに分類されるが、雇用者の持ち帰り残業や下請け型の在宅ワークといった非公式のテレワークも多分に存在するのだという。

また、山田氏は、ワークライフバランスの支援や生産性の向上といったテレワークがもたらす利点の一方で、仕事と生活の混合、コミュニケーションの不足といった弊害をもたらしていることにも言及する。国土交通省の「2008年度テレワーク人口実態調査」によると、雇用型と自営型のテレワーカー259人のテレワーク時間を減らしたい理由として、2割程度が「自分だけでは仕事の進捗管理や時間管理が難しい」と回答しているという。

こうした状況に対し、最後に健全なテレワーク推進に向けた課題について、山田氏は「第一に、職務の明確化やセルフコントロール能力など、実質的なインディペンデントコントラクター化をどう進めるか。2番目が仕事をアサインし、フォローするマネージャの能力の育成。そして、チームのコミュニケーションをどうするか」と語り、講演会を締めくくった。