Microsoftの日本法人であるマイクロソフトは10月2日、都内で記者会見を開催し、同社が9月に発表した組込機器向けOS「Windows Embedded」の次世代プラットフォームの詳細と日本の組込市場の現状の説明を行った。

マイクロソフト OEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャの松岡正人氏

マイクロソフト OEM統括本部 OEMエンベデッド本部 シニアマーケティングマネージャの松岡正人氏は、「Windowsは、過去よりネットワークに機器(デバイス)をつないでいこう、デバイス同士が双方向でつながるようにしようということを目標にした取り組みを行ってきた。新たなWindows Embeddedはこうした目標に向けた機能が新たに複数搭載された」と語る。

こうした背景には、PCに限らずTVといった組込機器もネットワーク(クラウド)に接続されるような環境が出来上がってきつつあるためであり、「現在は多くの別々のタイプのデバイス同士をつないでいこうという試みが出てきており、これによりネットワークと実デバイスがつながり、新しいサービスが生み出される可能性が広がる」(同)とし、そうしたサービスに対応した新たなデバイスも求められるようになるとする。

現在、Windowsを搭載した組込機器の数は数百億台規模に達すると見込まれているが、市場は主にエンタープライズ向けとコンシューマ向けの2種類に分けることが可能だ。

エンタープライズ向けデバイスのビジネス機会

エンタープライズ向けは、主に企業での活用を意識したもので、POSやATM、KIOSK端末などのほか、FAでのロボットなども含まれる。松岡氏は、「単なる端末を動かすためのOSという意味ではなく、こうしたデバイスはサーバやデータベースなどの基幹システムと必要なデータのやり取りを行うため、ネットワークのやり取りが必要だ。そのため、Windows Embeddedでのサーバソリューションなども用意している」とする。

2009年9月に発表されたWindows 7をベースとした次世代Windows Embeddedは、「Windows Embedded Standard 11」「Windows Embedded Enterprise "Windows 7"」「Windows Embedded Server 2008 R2」およびコンシューマ製品向けとして「Windows Embedded CE 6.0 R3」の4製品。

エンタープライズ市場向けWindows Embeddedのラインナップとその概要

この内、EnterpriseとServerは、一般的なWindows 7もしくはWindows Server 2008 R2を組込機器に適用するためのライセンスであり、同OSの一般向け発売日である10月22日に有効となる。また、Standard 11は現在コミュニティ・テクノロジ・プレビュー(CTP)版のダウンロード提供が行われている。松岡氏は、「これまでのWindows Embeddedは、一般向けWindowsは発売されてから1~2年を経て提供されていたが、今回はライセンス提供という形を取り入れたため、一般向けOSの発売と同時に提供が可能となった。また、Standard 11の製品版も1年以内に出荷できるはず」(同)と速やかな製品展開が行われるとの見通しを示す。

新しいWindows Embeddedになり、新たに追加された機能として注目なのは「ロケーション&センサ プラットフォーム」。これは、先日開催されたFreescale Technology Forum Japan 2009の基調講演でも紹介された加速度センサ付きグローブのように、GPSやセンサなどをつないだ際に用いられるドライバを開発するためのフレームワーク。これにより、Plug and Play的に各種センサなどを使用することが可能になるという。

一方のコンシューマ向けであるCE 6.0 R3は、ユーザインタフェースの開発環境を強化などを施したものとなっている。パン/ズーム/ジェスチャーによるブラウジングを可能とする標準フレームワークの提供により開発期間の短縮が可能となったほか、Silverlight 2をベースとした実行環境「Silverlight for Windows Embedded」と「Microsoft Expression Blend」を組み合わせることで、2次元もしくは擬似3次元のユーザインタフェース向けオブジェクトデザインをPC向けのデザイン方法と同じように行うことが可能となる。

Windows Embedded CE 6.0 R3の概要

なお、CE系の次世代バージョンとなる「Windows Embedded Compact」(開発コードネーム:Chelan)については、「2010年の第2四半期ごろの提供を予定しており、ネーミングとしては"2011"もしくは"2012"がつけられるはず」(同)としている。また、2008年にその存在を明らかにしたカーナビゲーション向けに提供されているWindows AutoとWindows Automotiveの機能を統合したプラットフォーム「Windows Auto "Motegi"(開発コードネーム)」に関しては、2010年第3四半期の提供予定となっている。

ソフトウェアとサービスをプラットフォームとして提供するのが同社の目指す方向性

組み込み向けWindowsのロードマップ

タイム・ツー・マーケット(TTM)と品質の両立を実現していかないと組み込み市場は生き残りが難しくなっているという。この課題に対し選択肢は、"作るものを減らす""他から部品を調達する""多額のコストを投じて自力で作る"の3つが挙げられるが、最後は非現実的だし、最初はできない選択であるため、必然的に選択の余地はなくなる

これまでは「水と油でさえ混ぜ合わせることで差別化を図ってきたのが日本の組み込み」(松岡氏)だが、上手くいかなかったときのリスクが大きいのが欠点となる

マイクロソフトが提言するのが、ユーザエクスペリエンス(UX)による差別化。つまり、効果的なユーザインタフェースを効率良く、開発することで、デバイスの差別化要因をハード的な部分ではなく、ソフトで実現しようという

組み込み分野における目標は、OSに開発したアプリケーションを搭載すると、後は勝手に機器同士がつながり、さまざまな機能を手間無く実行してくれるようになることであり、そのためには「Windowsを用いたエコシステムを活用することで、開発現場と実デバイスのギャップを埋めることができるようになるはず」(松岡氏)とする