矢野経済研究所は10月2日、2008年度のバイオメトリクス市場規模、2012年までの市場予測、およびバイオメトリクスの普及に向けた課題を発表した。同発表によると、2008年度のバイオメトリクス市場規模は、メーカー出荷金額ベースで206億円、前年度比で89%と急減速の結果となった。

同社では、これまで急速に普及し、市場に浸透し始めてきたように思われたバイオメトリクスシステムだが、昨今の経済環境の悪化に伴い、市場の拡大にも急ブレーキがかかったと分析している。2009年度のバイオメトリクス市場規模は214億円、前年度比で104%と見込まれている。

市場の成長を促す要因の1つであるバイオメトリクス認証システム機器の単価の引き下げを実現するには、市場規模の拡大によるスケールメリットを利用する必要があるが、現状は数量規模の拡大によるコストダウンというより、不況によるデフレ圧力で単価が下がってきている状況だという。

また、適用分野の状況としては、組み込み用途の特需も一段落して多様化が進んでいるが、単価の低いPCへのログインの用途が数量・金額ともに過半数を占めている。ここにも市場の成長を抑制する原因のひとつが存在すると指摘されている。しかし、PCログイン用途は数量ベースおよび金額ベースともに2007年度からの2年間で縮小しており、出入管理とその他の用途が拡大している。

バイオメトリクスの技術的課題としては、「バイオメトリクスシステムの技術は、現時点でも発展途上にあり、メーカー間で誰にでもわかる精度の評価基準を策定することが求められる」としている。現状では、一部の大手ベンダーが国内市場を主導する体制ができてしまっているのに対し、ベンチャー企業が海外の評価機関の認証を獲得しているが、抜本的な解決策にはなっていなため、市場では行政のリーダーシップを求める声が日増しに強まっていると指摘されている。

今後は、2010年度には不況から脱出して成長の一途をたどり、2012年度ごろには大きな成長を期待できるという。この背景として、IDシステムの管理・利用において煩雑さが増していることでバイオメトリクスに社会的な要請が強まっていることなどが挙げられている。2010年度は246億円、前年度比15%以上の成長、2012年度には330億円市場に成長するものと予測されている。

バイオメトリクス市場全体の国内市場規模(左)とバイオメトリクス市場全体の国内需要予測(左) 資料:矢野経済研究所