10月1日の都民の日には、ガラスケース内の展示品に触れて閲覧できる特別イベントを開催

東京都立中央図書館で開催中の「文字・活字文化の日」記念企画展示「文字は文明の乗り物 - 時空を超えて情報を伝える」。第2期は「3.文字の美、美術としての書」「4.思想を伝える文字、聖典の伝承」というテーマで10月5日まで展示中だ。文字が持つ記録・伝達という役割、美しさや個性の発現という性格の両面から、様々な資料を展示している。

文字の美、美術としての書

文字は情報を伝えるだけでなく、その「美」を見るという側面もある。日本では三筆(9世紀頃に活躍した嵯峨天皇・空海・橘逸勢)、三蹟(10世紀頃に活躍した小野道風・藤原行成・藤原佐理)などとして古くから優れた書道家が称えられている。

「書の至宝:日本と中国」、「王羲之書蹟大系」など、全ての書家が手本とする"書聖"王羲之(おうぎし)を始め、書の歴史や名筆と言われるものを集めて展示

「万葉集:西本願寺本」
万葉集の写本の中でも非常に古く、有名な写本。読みやすく、解説も多く記されている。右上は別の写本で「御物金沢本万葉集」

「日本書紀」
日本書紀の写本は数多くあるが、これは1000年以上前に作られた最も古いものを元にしている。下は「紫式部日記絵巻:蜂須賀家本」。文章の間に絵をはさんだ絵巻物。ひらがなが書かれているのがわかる

文字そのものだけでなく、それを書いた人に注目した内容の本も展示されている。文字は人を表すと言うが、人に宛てた手紙や、歌・小説などの直筆原稿の文字には、書いた人の人間性が感じられる。文章の内容だけでなく、その筆跡もまた、時代や人物を生き生きと描き出す資料となるのだ。

「書で見る日本人物史事典」
聖徳太子から徳川家康、手塚治虫まで、日本史における著名な人物の「書」をもとに、歴史や人物像をひもとく内容。写真は宮本武蔵と野口英世の母シカの手紙

作家の手書き原稿を収録した「大衆文学自筆原稿集」。様々な作家たちの個性的な筆跡だけでなく、作品を生み出すまでの苦心を、文字や修正跡から見ることができる

思想を伝える文字、聖典の伝承

宗教的な聖典は大切に扱われることから、後世まで永く残るものが多いそうだ。豪華重厚な装丁や精緻な文字・装飾など、当時の技術の粋を集めて作られたものであることが想像される。

「西蔵『曼荼羅』集成 : チベット・マンダラ」
1枚ずつのシートに印刷されたマンダラと、その解説書のセット。文様と文字の様式美に込められた意味を読み解くことができる

「アレクサンデル六世クリスマスミサ典礼書」
非常に華やかな挿絵・装飾と、整った文字が美しい。活字のようなかっちりした大きな文字だが、これも手書き写本だ

「ボルソ・デステの聖書」
15世紀中頃に作られた2冊組の大型本。豪奢な装丁やカバーが目を引く。文字の周囲には全てのページに精緻で華やかな装飾が描かれている

「Calligraphy in the arts of the Muslim world」
アラビア文字のデザイン本。宗教建築や布、彫刻など様々なものに文字が模様のように描かれていて、デザインも大変美しい

宗教的な教えだけでなく、歴史や知識・思想も文字によって記録され、残されてきた。そのひとつが明の成祖永楽帝の勅命により編纂された「永楽大典」だ。類書は、それまでの歴史や儒教の教え等その時代に記録し得る様々な情報を網羅した"百科全書"のようなもの。知識の一大集積であると同時に検閲の意味合いもあったようだ。この頃の文字が現在の「明朝体」のルーツと言われている。

「永楽大典」
明の時代に編纂された中国最大の類書。全部で何千~何万巻にも上るとされ、これは第2354巻。原写本の多くは失われている。几帳面な文字も特徴的だ

「Il codice atlantico(アトランティカ手稿)」
レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた兵器、築城、橋梁の機械工具などの図版を原寸大で収録した大型本で、全10冊以上にもなる

アトランティカ手稿を縮小してコンパクトにまとめた本(全3巻)。解説も添えられている。また、着想や自然観察を書き留めた「パリ手稿」、精緻な人体観察が描かれた「解剖手稿」も展示されている

漢詩や句、手紙などを収録した資料からは、文字の美しさや人の個性が感じられるが、それは書かれた内容にも現れている。一方で、数々の聖書写本やアラビア文字のカリグラフィーには伝達・記録を超えた美や荘厳さを追究する精神が感じられる。文章として意味を伝えること以外にも、文字が表現し得ることの幅広さを、様々な展示資料に見ることができる。

10月6日からの第3期では、活版印刷の発明がもたらしたメディア革命や、寄席文字からピクトグラムまで、文字とデザインについてをテーマにした展示が行われる。