日立製作所は8月26日、組み込み機器向けに厚さ3mmの指静脈認証モジュールを開発したことを発表した。これにより、これまで機器のサイズの問題から指静脈認証装置の搭載が難しかった携帯機器やUSBメモリなどへの搭載が可能となる。同社では2年以内に各種アプリケーションへの搭載を目指すとしている。

白い板の上にある黒いのが今回開発された指静脈認証モジュール

日立製作所 中央研究所 所長の小島啓二氏

同社中央研究所所長の小島啓二氏は、「今回試作したセンサは、ほぼ究極の薄さを実現したと言って良いと考えている。これにより、これまで入れなかった分野にも指静脈認証を適用することが可能になる」と語る。

指静脈認証は、人間の生体情報を用いた認証技術の1つであり、指紋や声紋、虹彩、顔など人間の表面上に出てくるものとは異なり、内部情報であるために他の生体情報と比較しても他者の再現が比較的難しいのが特長。

同社では入退用途、PC用途、組込用途の3分野に向けた開発を行ってきたが、今回の試作モジュールはこの組み込み分野向けに開発されたものとなる。すでに2009年1月に組み込み向けに厚さ23.5mmの指静脈認証モジュールを発表しているが、今回はそれを1/7に抑えることに成功した。

各分野における指静脈認証モジュールの進化(左)と薄型指静脈認証モジュールの進化(右)

指静脈認証の原理は、イメージセンサ上に広角撮影が可能な縮小光学レンズを設置、赤外LEDから赤外線を指に照射し、その散乱した光の反射をレンズで受光し、センサで処理を行うというもの。このため、薄型化を図ろうとすると、指とレンズの距離が近くなってしまい、集光する画角が広がり、レンズを広角対応のものにする必要が生じるほか、レンズ中心から離れた部分が暗くなったり、歪みが生じたりの影響による、画質の低下が問題となっていた。

従来の指静脈認証技術

日立製作所 中央研究所の三浦直人氏

今回の試作モジュールでは、こうした従来方式の構造を変更。「非接触フラットセンサによる等倍光光学方式を採用した」(同社中央研究所の三浦直人氏)という。具体的には、CMOSイメージセンサ上にある程度の高さの遮光層を設置、その上にマイクロレンズをアレイ状に配置するというもの。遮光層により、直上方向の局所光のみをマイクロレンズで集光することが可能となる。

今回新たに採用された薄型化技術

また、これまでの指静脈認証モジュールは、指の外側まで検知する広い開口部を設けることで、指の姿勢認識などを行い補正を加えていたが、今回は小型化したことにともない、姿勢制御などが不要になるとの判断のほか、太陽光が降り注ぐ屋外での外光の進入を防ぐために開口部を小さくした。加えて、強い太陽光が指を透過してしまう場合でも認識可能にするため、赤外LEDの光量調整とセンサの感度調整機能を搭載。これにより、太陽光2万ルクスの環境下でも動作が可能となり、屋外でも使用することが可能となった。

開口部を狭小化することで外光の侵入を防ぎ、屋外での使用も可能にした

センサ部分は、24mm×17mm×2mmで、撮影エリアは15mm×10mm。このエリアに0.1μmピッチで150×100個のマイクロレンズが配置されており、それらで指静脈を検知する。指静脈の認識はセンサから約2cm放しても検知することが可能だという。認証時間は1s以内で、認証率は本人拒否率が1/1万、他人受け入れ率が1/100万となっている。

今回のモジュールを用いての認証デモ(指をモジュールの上に置くと指の静脈がモニタに映し出される)

なお、同社では、実用化に向けさらなる小型化を進めるほか、コスト要求の厳しい組み込み機器向けに対応できる量産化技術の開発などを進めることで、現在の指紋認証装置など、他の生体認証機器と同程度の価格で提供できれば、としている。