産業技術総合研究所(産総研)は、ジルコニア(ZrO2)系電解質を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)の作動温度を従来の700~1,000℃に比べて低い温度となる600℃で発電密度1.1W/cm2を達成したことを明らかにした。
SOFCはセラミックス材料で構成されるため固体高分子形(PEFC)や溶融炭酸塩系(MCFC)、リン酸系(PAFC)などと比べてエネルギー効率が高いが、作動温度が高温となるため、大型発電設備など用途が限られていた。産総研はファインセラミックス技術研究組合とSOFCの作動温度の低温化と急速起動性能の向上を目的とした取り組みを進めており、これまでにもセリア系材料を用いたチューブ型マイクロSOFCおよびその集積化技術の開発などに成功している。
今回は、多くの研究開発実績があり、コスト面でも有利なジルコニア系材料の低温作動を可能とする製造プロセス技術の開発に向け、セリア系材料によるチューブ型マイクロSOFCの製造技術を発展、電解質の膜厚を従来の20μmから3μmまで低減させたほか、気孔率や触媒構造といった電極構造の制御を可能とする製造プロセスを開発した。
電解質材料にはジルコニア系セラミックスを、燃料側電極材料にはNi-ZrO2系セラミックスを、空気側電極材料にはLa-Co-CeO2系セラミックスを採用。これらを用いて1.8mm径のチューブ型マイクロSOFCを作製した。
このSOFCの燃料極の気孔率を変化させ、水素流通下における発電性能を比較したところ、電極抵抗は燃料極の気孔率に影響を受けることを解明。これにより、気孔率54%で電極抵抗を1/30まで低減することが可能になったという。このSOFCに550~600℃の作動温度で発電試験を行ったところ、最大0.5~1.1W/cm2の電力を得ることに成功したほか、マイクロSOFCの発電性能が燃料流量条件により変化することを発見した。
産総研では、これにより、ジルコニア系SOFCの高性能化や作動温度の低減化への指針が明らかとなり、その設計が可能となったとしており、今後はコスト面で有利なジルコニア形SOFCの性能向上を目指した研究開発を進めるほか、これまで開発してきたセリア系SOFCが作動温度が500℃程度であるため、燃料の種類や改質方法など、さまざまな使用条件や用途により使い分けることが可能なため、これらを活用したSOFCの用途拡大と普及促進を図っていくとしている。