本稿では、SAP社のパートナービジネスについて解説したい。SAPのビジネスがパートナーによって支えられているのは疑いのないところだが、実際、両者とユーザー企業の関係はどのように成立しているのか、外部の人間には見えにくい部分も多い。SAP出身で、現在はパートナー企業に籍を置きながらSAP対応ビジネスを主導する筆者が、そのエコシステムの全貌、そして今後のSAPビジネスのあり方について述べていく。
SAP社の戦略はパートナープログラムにあらわれる
数多くのパートナープログラムがSAP社より提供されているが、一般的によく知られているものを3つ挙げるとすれば、以下になるだろう。
- SAPシステムを導入するサービスパートナー
- SAPソフトウェアライセンスを販売(リセール)するチャネルパートナー
- SAP製品のトレーニングを提供するエデュケーションパートナー
中でも、最も多い認定パートナー数を誇っているのが「サービスパートナー」である。しかし、SAP社のビジネス戦略を読み取ろうとするものは、「サービスパートナー」よりも「チャネルパートナー」に着目する。「チャネルパートナー」は、ソフトウェアライセンスを販売するテリトリーが定義されており、ここをよく見ることで、SAP社が採用している戦略が自然と浮き上がって見えてくるからだ。
SAP社、その収益モデルを紐解く
SAP社、もしくは"SAP"という名は、ITに馴染みの薄い方でも一度は耳にしたことがあるだろう。業界を越えて"SAP"を有名にしたのは、「R/3」というERPパッケージであり、10年で稼動システム1,000インスタンス以上という金字塔を打ち立てた。SAP社が上陸した当時の状況はといえば、自前の情報システムが当たり前であり、まだまだメインフレーム神話が根強く支持されていた。ビジネスソフトウェアの領域での成功が、"SAPイコールR/3"というイメージを定着するに至ったのは自然な成り行きといえる。
現在のSAP社は、統合的なビジネスソフトウェアベンダであり、ERPだけでなくCRM、SCM、PLMやBIといった、企業が求めるビジネス機能のすべてに対応するグローバルリーディングカンパニーのひとつである。実際、現在のSAP社のERPパッケージは、「SAP ERP」という名称である。
SAP社の収益モデルは、いたって単純であり、3つのビジネスフェーズから成り立っている。すなわち、
- 新製品を開発、販売することで収入(ライセンス費)を得る
- 製品のメンテナンスをすることで収入(保守費)を得る
- 上記2つから得られた収入を新製品の開発費として投資する
であり、これを1サイクルとして廻すのだ。そのためにSAP社が取った戦略は、企業向けビジネスソフトウェアに製品を特化し、世界50カ国以上をターゲットとし、SAPジャパンのように製品販売の総代理店を持つビジネスモデルを構築することだった。
SAPビジネスをERPでマネージする
話をSAPパートナープログラムに戻す。ERPパッケージは、企業リソースが最も有効に活用されるよう管理するソフトウェアであるが、SAP社はリソース(ヒト、モノ、カネ、情報および時間)を最も有効に活用する手段としてパートナープログラムを定義している、という視点が重要だ。すなわちSAP社のビジネスは世界中で必要とされる言語や通貨、並びに税法対応を組み込んだソフトウェアを開発し、各国の総代理店へ届けるまでであり、SAPパートナー企業はライセンスのリセールやSAPシステム導入などを実施する。したがって、ユーザー企業は製品の機能や安定性をSAP社に求め、製品の導入やトレーニングなどは各国に存在するSAP支社やパートナー企業に支援を求めることになる。
このスキームを考えた場合、「ユーザー企業 - SAPパートナー企業 - SAP社」の関係においてWIN - WIN - WINのビジネスモデルとなっており、成功しやすいモデルといえる。ただし、SAP社が魅力的な製品を次々とリリースすること(継続的なイノベーション)と、継続的にSAPソフトウェアを購入/導入するユーザー企業が存在すること(成長するマーケット)が前提である。最近でこそBusinessObjectsを買収したSAP社だが、実は自社開発にかなりのこだわりを持っているといえる。
一方、企業向けビジネスソフトウェア領域で最大のライバルといえるOracleは、ERP領域でもCRM領域でも積極的な企業買収により製品群の品揃えをしている。はたしてSAP社が、ユーザー企業にとり魅力を感じるソフトウェアを、タイムリーに提供しているかという点については、なお検討の余地があるだろう。