日本オラクル ライセンス事業推進統括本部 インダストリーソリューションアーキテクト本部 プリンシパルセールスコンサルタント 高畑充弘氏

どんなに経済的に厳しい状況であっても、株式会社である以上、企業は成長戦略を目指さなくてはならず、それは金融機関であっても同じことだ。もはや人口減少や少子高齢化が進む国内だけにビジネスのチャンスを求めるのは得策とは言えず、積極的に海外進出、とくに新興国を中心とした市場への進出を検討すべきなのかもしれない - これが現在の国内金融機関に突きつけられている課題だと、日本オラクルの高畑充弘氏は言う。

海外進出にあたって障壁となるさまざまな要素のうち、こと金融機関に共通する悩みとして、

  • 会計業務 … 国内の会計基準との違い
  • 顧客情報管理 … グローバルな顧客情報の共有が可能なのか
  • リスクマネジメント … 信用リスク/市場リスク/オペレーショナルリスクへの対処
  • バックオフィス業務 … 購買管理/経費精算/取引先管理/承認ワークフローなどの違い
  • 人財育成 … 給与体系の違い、グローバルに通用する人材の不足
  • ITガバナンス … ユーザ管理/監査証跡/メール管理などの徹底の難しさ

などを高畑氏は挙げる。そこに横たわる問題は"日本と海外の商習慣の違い"に起因する事項がほとんどだ。金融機関にとって最大のチャレンジである「グローバルスタンダード」という壁の克服にあたり、ITソリューションの提供という面から支援するオラクルの戦略について紹介しよう。

米Oracleはニューヨークに金融サービスを専門に行う「Oracle Financial Services」を構えている。同社はワールドワイドで8万6,500人の従業員を抱えるが、Oracle Fiancial Servicesにはそのうち1万2,000人以上が従事している。顧客企業は8,500社、パートナー企業は2,100社に上る、世界でも最大規模の金融ITサービス専門部隊だ。

また、周知の通り、Oracleはここ数年、数多くの企業の買収を行ってきた。したがって同社自身がグローバルスタンダードの徹底の重要性を強く認識しており、社内に蓄積されたグローバル化推進のためのノウハウは貴重なモデルケースでもある。「Oracleが培ってきた業務モデルを参考にさせてほしいというお客様も多い」(高畑氏)という。

そういった社内外に豊富な事例をもつ同社がいう、企業内あるいはグループ内でグローバルスタンダードを浸透させるために最も重要な鍵は、本社/本部による「統合管理」だ。世界各地にオペレーション部隊をもつ企業であればあるほど、一元化された管理が何よりも必要になるという。「リージョン(ローカル)ごとのオペレーションを許容してしまうと、コーポレートガバナンスおよびコスト削減の2点が実現しにくくなる。さまざまな流儀のオペレーションが存在する状態では、負荷もコストも大きくつくことになる。残念ながら日本の場合、財務データひとつをとっても、統一されていないガバナンスの下、各リージョンからばらばらのデータが上がり、統合のために多大な時間とコストが費やされている」(高畑氏)。そこで同社は、日本の金融機関に多い、各リージョンからの「データ収集型」ではなく、グローバルで統一されたガバナンスの下、最小限のインスタンスにデータを集約する「グローバルシェアードサービス」を推奨する。

米国の事例としては、大手証券会社、大手保険会社などで実際に財務会計システムがシングルインスタンスで構築されているという。高畑氏が紹介した「世界最大のOracle General Ledger事例」である米UBSでは、全世界のUBS会計データ - 1日におよそ仕訳1,000万件、残高5億件を、グローバルシングルデータベースで稼働させているという。同システムは会計インフラを勘定系から独立させているため、勘定系の改変にも即対応でき、子会社から上がってくるさまざまなシステムから発せられるデータも柔軟に取り込めるインフラとなっている。UBS以外の事例においても、シングルインスタンス化により「決算の早期化」「ITメンテナンスコストの削減」「グループ全体のガバナンス向上」などのメリットが生まれているという。

日本オラクル ライセンス事業推進統括本部 インダストリーソリューションアーキテクト本部 本部長 塚越秀吉氏

「正直、日本オラクルはこれまでインダストリ戦略をお客様に対して明確に示してこなかった部分がある。今後はこれを改め、積極的に目に見える形で提示していきたい。金融ITソリューションの紹介はその第一歩」と語るのは、この6月から日本オラクル ライセンス事業推進統括本部 インダストリーソリューションアーキテクト本部の本部長に就任した塚越秀吉氏。積極的な買収戦略を採るOracleだが、買収する企業の条件として「"Complete, Open, Integrated"というOracleの戦略に即した企業であること、その業界でNo.1のソリューションを保持していること」を挙げる。今後はその優位性を日本市場でも積極的に打ち出していく方針だ。

高畑氏によれば、国内企業の中でも「金融機関は会計基盤の統合やシングルインスタンスモデルの採用に躊躇しがち。むしろ製造業などのほうが積極的に取り組んでいる」という。国内に潤沢な市場が拡がっていた時代はそれでもよかったのだろうが、ビジネスチャンスを求めて海外に進出するからには、日本の商習慣を押しつけてばかりもいられなくなる。また、欧米の国際会計基準(IFRS)採用の動きにあわせ、日本でも2012年には強制適用が開始されるとの見方が強い。不況下のいまだからこそ、金融機関はグローバルスタンダードを意識したビジネスモデル構築に真剣に取り組まざるを得なくなってきているといえるだろう。