バンダイチャンネルは『機動戦士ガンダム』30周年記念企画として、TVアニメーションシリーズの第1作である『機動戦士ガンダム』全43話を7月20日から1日1話ずつ無料配信中である。この配信は、アドビ システムズのAdobe Flashを採用したストリーミング方式で行われている。Adobe Flash Media Server 3のRTMPE(RealTime Messaging Protocol Enhanced)通信による著作権保護を施し配信された動画は、ブログサイトへの貼り付けも可能。Adobe Flashの採用に至る経緯と、今後の動画配信の展望をバンダイチャンネルの代表取締役社長である松本悟氏とアドビ システムズ Scene 7and DMO 羽賀隆雄氏が語る。
アドビの動画配信技術を利用した理由とは
なぜ、バンダイチャンネルは今回の動画配信にアドビの技術を採用したのだろうか? 松本氏はその採用の経緯と、動画配信への期待を語った。
松本氏「バンダイチャンネルは今年で事業スタートは8年目となります。今年後半から海外に向けてコンテンツを配信していこうという計画があり、これまでの取り組みの他に、海外での動画配信の実績、対応環境の豊富さなどにより、アドビさんのAdobe Flash Playerが有効だという結論に至り、今回のプロジェクトで採用させて頂きました。RTMPEで著作権を保護しながら配信できるという部分も魅力的ですし、動画をブログに貼り付ける事が可能という部分が、弊社として対応できない機能でもあり、大きな期待感を持っております」
すでに認知度の高い人気コンテンツを1日1話ずつ無料配信し、ブログにも自由に貼り付け可能という方式は、大きなコンテンツホルダーにとって、かなりの英断だったようだ。
松本氏「バンダイナムコグループでは、DVDを販売しているという事もあり、確かにかなり勇気のいる決断でした。ですが、世界への動画配信に関して本格的に取り組むということをアピールするには、バンダイナムコグループの1番のコンテンツである『ガンダム』が最適であるという結論になりました。お台場のガンダムの実物大の立像が8月31日まで設置されていて、まったく同じ期間でガンダム全話が無料配信されるという連動性もあります」
RTMPE 128-bita暗号化でコンテンツを保護し配信
Flashにおける動画配信の有効性に関してアドビ システムズの羽賀氏は、強い自信を覗かせた。
羽賀氏「弊社の技術を利用していただいた一番大きな要因はFlash Player9の98.8パーセントという普及率だと思います。Media PlayerなどのWin環境だとMacユーザーが入ってこれないという部分もありますし、Flash Media Server 3のなかのRTMPEの有効性も大きいと思います」
RTMPE 128-bita暗号化が、コンテンツを配信する側にとって極めて大きなメリットだと松本氏は語る。
松本氏「無料配信とは言っても、コンテンツ保護は大切です。現在では、テレビ放送されたコンテンツは、容易にDVD以上のクオリティで個人によりアップロードされてしまいます。これには、危機感を感じています。我々が配信するレベルを上げる、ガードを固めるということも大切ですが、無料で見れるという環境を上手く利用して、オフィシャルな物として無料で見れる環境を整えていくことが、最も大切だと思います。違法アップロードが必要ない、オフィシャルで素晴らしいコンテンツが気軽に楽しめるという形に持っていくのが理想です。オフィシャルな形で、クオリティの高いものをユーザーに配信する。そして、我々がそれをコントロールできているという形が大切です」
無料動画配信で変容するコンテンツの形
複製不能なオフィシャル無料動画を優良サービスとして提供する。そのスタイルを確立した上で、ビジネスとして成立するのだろうか?
松本氏「テレビ番組で映像を流し、プラモデルやDVD売るというこれまでの形は、多少変化していくかもしれません。ある程度コアなファンが存在するコンテンツは、テレビを経緯せずに動画配信でダイレクトにお届けして、口コミで広げて、プラモデルやDVDの購買に結びつけるという形も有り得ると思います。DVDに関していえば、日本だけで完結できていたDVDのビジネスが成立しなくなってきているので、欧米での展開も考えなければなりません。10年程前アメリカでテレビ放送した『新機動戦記ガンダムW』では、プラモデルもかなり売れ、DVDは100万本以上売り上げました。ところが現在は、アメリカのテレビ事情も変わり、『ガンダム』のような作品はテレビ放送が出来ずらい環境になり、期待通りの露出が出来ていません。そこで、動画配信と同時に欧米でもDVDが買える環境を整えていく予定です。また、RTPMEプロトコルで配信動画と同様にセキュアな環境で字幕も付けられるという事なので、具体的にどのように実装できるか検討しています。」
最後に、松本氏と羽賀氏は、今回の動画配信から生まれる新しい流れに関して語った。
松本氏「動画配信を中心にしたコンテンツ制作を増やしていきたいですね。テレビに合わせた30分という尺も変わってくる可能性もあり、コンテンツのあり方そのものがが変わってくると思います」
羽賀氏「バンダイチャンネルさんの件もそうですが、多くのテレビ局さんが、自社のコンテンツを配信するサービスに採用する技術として、弊社の技術を選択しています。さらに同じような展開が増えていけばありがたいですね」
動画配信によって、TVアニメというコンテンツはその視聴スタイルだけでなく、コンテンツ自体のスタイルも変わりつつある。その潮流にアドビ システムズの技術は深く関わっている。
撮影:糠野伸