米National Instruments(NI)の日本法人である日本ナショナルインスツルメンツ(日本NI)は8月4日、同社の設計/テストオートメーション/組込システム開発向けグラフィカルシステム設計ソフトウェアプラットフォーム「NI LabVIEW」の最新版「LabVIEW 2009」の販売を開始したことを発表、それに併せて同社は記者会見を開催し、LabVIEW 2009の新機能および、8月5日に発表したマルチファンクションデータ集録(DAQ)デバイス「Xシリーズ」およびLabVIEWと、ZigBeeを用いたワイヤレス計測ノードで構成されるリモートモニタリング製品「NI wireless sensor network(WSN)」の説明を行った。

LabVIEW 2009の使用イメージ

日本NIのテクニカルマーケティングマネージャの岡田一成氏

日本NIのテクニカルマーケティングマネージャの岡田一成氏は、「日本のモノづくりにおいて、今後は新興国市場に向けた戦略を打ち出していく必要があるが、そのためには低価格化だけではなく、高付加価値化、高品質化路線へとシフトする必要がある」とする。

しかし、単にそうした路線へ踏み出せば、機器の機能が増えれば増えただけテストの増加を招くこととなり、負担が増えることとなると指摘する。また、電波や道路など現地の仕様に応じた製品や技術、サービスの投入が求められることとなることから、今後のテスト開発においては「"高速化"と"工数削減"を達成する必要があり、今回発表した3製品は、そうした要求に対するNIからの解答である」(同)とした。

日本メーカーの新興国向け戦略が変わろうとしている

日本NIプロダクト事業部マーケティングエンジニアである古川亨氏

この"高速化"と"工数削減"を日本NIプロダクト事業部マーケティングエンジニアである古川亨氏は、「"もっと速く"と"もっと早く"という表現に変えることができる」とし、"もっと速く"という意味では「並列処理の強化」を、"もっと早く"では「開発環境の強化」による工数削減を掲げ、これらを横断的にカバーするものとしてさまざまな知識の統合による開発支援となる「マルチパラダイム開発」を掲げた。

NIが今回発表した新製品群でいかに課題を解決したのかのイメージ

並列処理の強化

並列処理の強化として、LabVIEW 2009では、

  1. マルチコアの活用
  2. データ保存処理の最適化
  3. 並列処理を支援するI/Oデバイス

の3つが組み込まれている。

並列処理によるパフォーマンス向上のイメージグラフ(多機能なシステムほど従来版よりもアプリケーション性能が向上していることを示す)

マルチコア活用では、「ループ処理を行う場合、これまでは1チャネルずつ処理を行う作りだったため、マルチコア環境下では空きコアが出てしまう問題があった。今回はバックエンドで自動的にマルチコアを認識し、並列実行することで、スループットの向上を図った」(同)とする。

ループ処理はこれまで並列処理ができなかった(今回、マルチコアを認識し、従来と同じロジックで並列処理を実行できる)

2つ目のデータ保存処理は、「従来はハードウェアからデータを読み取り、ファイルへ書き込み、OSバッファを通ってHDDに書き込まれるという手順を経ていたが、データのやり取りが多いためパフォーマンスが低下していた」(同)と従来方式を振り返り、「今回はドライババッファから直接HDDに送ることが可能になり、スループットの向上が図られた」(同)とする。

左が従来のデータの経由方法、右が今回取り入れたデータの経由方法

3つ目のI/Oデバイスとしては「Xシリーズ」が提示された。Xシリーズは、250kSpsから2MSpsのサンプリングに対応し、32チャネルのアナログ入力、4チャネルのアナログ出力、48チャネルのデジタル入出力、および4チャネルカウンタを備えており、PCI ExpressならびにPXI Expressに対応する。「Xシリーズを用いることで例えば、モータ制御と特性計測を同時に行えるほか、電子デバイスの制御と特性計測も同時に行うことができる」(同)とする。

「Xシリーズ」の外観写真(左)とラインナップの詳細(右)

より使いやすくなった開発環境

一方の開発環境強化としては、LabVIEW 2009では、FPGAでデータを処理した後の通信をI/O変数でカプセル化することで、変数の値を入力するだけでできるように簡素化されたほか、「NI Hypervisor」と呼ばれるハイパーバイザを用意、これにより同社の計測システムである「PXIシステム」を仮想化環境とし、従来のRTOSに加えて設定/監視用のGUIとしてWindows XPを搭載することが可能となった。

従来のFPGAで処理したデータとRTOSとのやり取り(左)に比べ、通信をカプセル化したことで非常に簡素な構築で通信が可能となった(右)

ハイパーバイザは市販のものをカスタマイズしたとのことで、これによりLabVIEW RTOSとWindows XPを1つのシステム上で稼働させることが可能となる

また、フロア全域といった広域計測を行う場合、温度センサ+計測モジュールの組み合わせでは配線が面倒なほか、ノイズの影響を受けやすいという課題があり、屋外での使用に至ってはWi-Fiではバッテリが維持できないという課題があった。新たに発表されたWSNでは、ZigBeeを活用することで、バッテリの軽減を抑えることに成功、通常で1年、プログラム次第では3年の寿命確保が可能という。

計測ノードとしては、アナログ入力の「NI WSN-3202」と熱電対入力の「NI WSN-3212」の2種類を用意。一方のゲートウェイの伝播距離は300mで、-30℃~+70℃の温度範囲に対応する。

WSNにより広域計測開発を簡略化することが可能となる

LabVIEW以外の技術・知識を活用

古川氏は、「LabVIEWにも苦手分野があり、そういった分野では工数が多くなることがあり、ほかの言語を活用した方が早い場合がある」と語る。こうしたほかの言語などとの対応を図るのが"マルチパラダイム開発"で、今回、LabVIEWで.NETアセンブリに対応、LabVIEWでビルド可能とした。これにより、例えばC#で書いたプログラムをLabVIEWのプログラムに入れ込むといったことが可能となる。

LabVIEW以外の技術や知識をLabVIEWで活用することで工数を削減することが可能

このほか、さまざまな外部ツールなどに対応がなされたが、大きなところとして「SolidWorks MotionとLabVIEWが連携することで、PCの内部だけで機械の位置や衝突などの状態を計測・解析することが可能となった」(同)とする。

SolidWorksのツールキットと連携することで、実機不要で計測・解析を完結することも可能となる

なお、日本NIでは、今回の新製品群の投入により、日本でのLabVIEWの更新率上昇を狙うほか、新規市場開拓および既存技術との統合によるこれまでLabVIEWを触ってこなかった分野の顧客獲得などを目指すとしている。