三洋電機は7月21日、国立感染研究所 感染症情報センター 第6室室長を務める木村博一氏を招いて、新型インフルエンザに関する講演会を開催した。同社では、新型インフルエンザ対策を企業におけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の1つと位置付けている。世界的に大流行を続けている新型インフルエンザだが、気温が下がり空気が乾燥する秋冬になると、勢いを増すことが予測されており、早めに準備しておくに越したことはない。ここでは、同講演会で説明がなされた新型インフルエンザの特徴、その防止策についてお伝えしよう。

当日は、群馬県にある同社の東京製作所保健センターをメイン会場として、全国25拠点が中継で結ばれた。

タミフルが効かない日もやってくる?

国立感染研究所 感染症情報センター 第6室 室長 木村博一氏

木村氏は、新型インフルエンザ(H1N1)について、「新しいウイルスではなく、インフルエンザのトレンドから見ると"3回目の来訪"になる。研究者からすれば、"また来たか"程度の話」と、新型インフルエンザがウイルスとして特に危険性が高いものではないことを強調した。

WHOによると、7月6日時点で、136ヵ国において9万4,512人が感染しており、死者数は429人で、致死率はわずか約0.45%である。

現在、北半球と季節が逆転する南半球で感染者が増えているという。となると、あと数ヶ月して秋冬に突入する北半球でも、新型インフルエンザが猛威を振るう可能性がある。

同氏は今後、新型インフルエンザについて注目すべきこととして3点挙げた。1点目は「毒性と伝搬性の変化」である。先に述べたように、現在のところの致死率は約0.45%だが、遺伝子の変異によって強毒化、高伝搬性、増殖の効率性向上の可能性があるという。2点目は現在治療薬として効果があるタミフルが効かなくなる可能性があるかもしれないことである。3点目は、重症患者の要因の解析により、季節性のインフルエンザよりも肺炎を起こしやすいのではないかと推測されていることだ。

手洗い・うがいは忘れずに

また、対処法についても説明がなされた。例えば、呼吸器感染症においてウイルスが感染源の場合、ウイルスが鼻や喉に侵入して細胞を破壊し、炎症が起こる。さらに、患者の免疫力が低下していれば臓器に飛び火する可能性もある。実際、新型インフルエンザの場合、重症患者は妊婦、ぜんそく、慢性心疾患、肥満者や免疫不全患者に多いそうだ。

したがって、うがいをすることで、鼻や喉を介して侵入してくるウイルスをシャットアウトすることが重要となる。

また、空気感染は私たち思っているよりも少なく、感染者が触ったドアのノブを他の人が触り、その人がウイルスが付いた手で自分の顔などを触ることで、感染するという。したがって、手を洗うこともまた新型インフルエンザの予防策として重要というわけだ。

加えて、マスクや空気清浄機も"100%安全という保証はないけれど、逆にまったく無効ではない"という。呼吸器ウイルスの感染源は、上述した患者の排泄物の接触による感染(接触感染)のほか、患者の咳・くしゃみによる排泄物による感染(飛沫感染)があり、新型インフルエンザの感染源は約半分ずつだと考えられるそうだ。この飛沫感染の防止策がマスク・空気清浄機となる。

最近は高機能かつ高価なマスクも売られているが、同氏によると「どんな種類のものでもよい」そうだ。さらに、同じマスクを使い続けても一定期間の効果はあり、また、手元にマスクがない時は咳をする際に口を手・袖・ハンカチなどで覆うだけでも効果があるという。

また、オゾン、プラズマ、電解水といった付加装置を備える空気清浄機の効果については、科学的・医学的に根拠があれば一定の効果が期待できると同氏は述べた。

ウイルスの抑制効果がある電解水技術

三洋電機 研究開発本部 部長 井関正博氏

木村氏に次いで登壇したのは、三洋電機の研究開発本部部長を務める井関正博氏だ。同氏は、同社が開発を手がけてきた「電解水技術」について説明した。電解水とは、水道水に含まれる塩化物イオンを用いて、電気分解により2種類の活性酸素(次亜鉛素酸、OHラジカル)を生成したものだ。同社ではこの電解水を空気浄化に応用している。

その1つの方式は「除菌エレメント方式」で、電解水を含ませたエレメントに室内の空気を強制的に通して循環させることで、通過する空気中のウイルス・浮遊菌・臭気を抑制する。もう1つの方式は「除菌電解ミスト方式」で、電解水を霧状にした除菌電解ミストを放出して、空気中のウイルス・浮遊菌・臭気を抑制する。

同社ではこの2つの方式について、インフルエンザウイルスに対する効果検証を行ったが、双方において、ウイルスが99%減少したことが確認されたという。

ウイルスには、脂質膜構造を有するものと有しないものがある。前者は「エンベロープ型ウイルス」と呼ばれ、新型インフルエンザと鳥インフルエンザのウイルスが該当する。後者は「ノンエンベロープ型ウイルス」と呼ばれ、ノロウイルスが該当する。同社の実験では、両タイプのウイルスに効果があったそうだ。なお、電解水関連技術の効果検証は同社に限らず、さまざまな実証機関でも行われている。

三洋電機の電解水技術によるウイルス抑制の検証結果

同社の電解水技術によるウイルス抑制機能(ウイルスウォッシャー機能)を搭載した空気清浄機はすでに、ワーナー・マイカル・シネマズ(映画館)をはじめ、さまざまな施設に導入されている。

ウイルス抑制機能「ウイルスウォッシャー機能」を搭載している三洋電機の空気清浄機。右は個人向けのポータブル空間清浄器で、左は業務向けの空気清浄機

現在、すべての都道府県で新型インフルエンザの感染者が出たうえ、さらに少しずつではあるが感染者は増えている。また、秋冬になったら、新型インフルエンザが多くの死者を出したスペイン風邪に並ぶほどの脅威となるのではないかと見る向きもいる。備えあれば憂いなし――大勢の人が集まる企業、集合施設では、今のうちからさまざまな対策を検討しておく必要があるのではないだろうか。