2009年7月21日(日本では22日早朝)アポロ11号が月に着陸してからちょうど40年となった。NASAのWebサイトをはじめ各所で取り上げられていたので目にした人も多いことだろう。
最後のアポロ17号が月に行ったのが1972年なので、それから数えて37年経っても他の星への有人探査はまったく行われておらず、そのためかアポロ計画は捏造だったという人までいる始末だ。確かに何十年もかかっても地上300km程度のISSがやっとに見える現在の状況しか知らない人たちがそう思ってしまうのも不思議はないかもしれない。
しかし先日アメリカの月探査機「LRO」がアポロの月着陸船の写真を撮影したように、40年前に人類が月に足跡を残したのは事実だ。 そんな現在、日本人がよく知る某宇宙開発機関で現役の宇宙エンジニアとして活躍する野田篤司氏が、人類は何のために宇宙に行くべきなのか、どうやって宇宙に行くかということを説いたのが本著「宇宙暮らしのススメ」だ。といっても難しい観念や理論、数学が出てくることはないし、「どこからが宇宙なのか」「ロケットは何のために大量の燃料を燃やして飛んでいるのか」といった非常に基礎の部分から解説してくれているため、宇宙に興味はあるが難しそうで今一歩踏み込めなかった多くのみなさんにこそ読んでもらいたい本だと思う。
例えばロケットは真上に打ち上げると思っている人がいるが、それが間違いであることをこの本では明確に解説してくれている。もしボールを真上に投げたらどうなるかを予測できない人はあまりいないだろう。正確に真上に投げたならば正確に自分の上に落ちてくるだけだ。ロケットといえど同じ事で真上に打ち上げたら真下に落ちてくる。そのためロケットの打ち上げシーンを見ていると途中から必ずどちらかの方向に傾いていくはずだ。今度ロケットやスペースシャトルの打ち上げ中継を見るときは注意して見てみるといいだろう。
野田氏はまた、宇宙で暮らす場所、次に人類が進むべき場所として月や火星ではなく小惑星を挙げている。日本の宇宙開発の方針として挙げられている月を否定して小惑星を推すからにはそれだけの理由があり、読んでいて納得できるし、実際に行ってみたらどうなるのか非常に興味深いところだ。他にも宇宙線(放射線)の話はSFではほとんど語られないので新鮮かつ深刻に感じた。
また、あさりよしとお氏による1ページマンガも各節の内容を理解するのを手助けしてくれることだろう。科学マンガのオーソリティと紹介されているあさり氏の力が存分に発揮されているのではないかと思う。
帯が付いていると近頃よくある「萌え系」の書籍に見えるが、帯を外してしまえば落ち着いたデザインでブックカバーなしで通勤通学中に読んでもおかしくないつくりになっているのもありがたいといえるだろう。
ちょっと残念な天気に見舞われた地域が多かったが皆既日食があったばかりだし、ISSの日本の実験棟「きぼう」もついに完成、そして9月には種子島でH2Bロケットの初打ち上げが行われる予定と、イタリアの科学者ガリレオ・ガリレイが初めて望遠鏡を夜空に向け、宇宙への扉を開いた1609年から400年の節目の年として進められている「世界天文年」と相まって宇宙関連のイベントは盛りだくさんだ。この本で基礎を学んでからそういったイベントを迎え、未来に思いをはせるのも悪くないだろう。
宇宙暮らしのススメ
野田篤司 著
あさりよしとお 絵
学習研究社
2009年7月 発行
143ページ
ISBN 978-4054041424
定価 1,260円