東北大学多元物質科学研究所の進藤大輔教授のグループは、透過電子顕微鏡の中に導入した複数のピエゾ駆動探針の1つに光ファイバを介したレーザ照射口を導入、光発電プロセスの評価に有効となる光励起現象の解析を行ったことを明らかにした。

同グループは、日本電子と共同で、透過電子顕微鏡内で2本の探針を独立駆動できる独自の装置に改良を施し、可動アームの1つにレーザ照射機能を付与し、新たな多機能型試料ホルダを開発したという。同ホルダのアームの先端にレーザ照射口を設置、電子顕微鏡技術で用いられている有機感光体への光照射実験を実施した。

透過電子顕微鏡内で試料へレーザを照射できる独自開発の試料ホルダ。(画像はホルダ先端部の写真。レーザ照射機能を備えたアーム1と、試料の摩擦など種々の用途に用いるアーム2の、2本の可動アームを搭載している。bは透過電子顕微鏡の外部で、試料にレーザを照射した状態)

同実験では、レーザが誘発する現象そのものを高精度で観測するために、電子顕微鏡で用いる電子(入射電子線)が引き起こす有機感光体の帯電現象を避ける工夫(シールド)を施しており、試料への電子線照射を防いでいる。この状態で、もう1つの可動アームに装着したガラス棒で有機感光体の表面を擦ることで、有機感光体の表面に負の電荷を発生させ、その後、レーザを照射。これにより有機感光体内に電子とホールが形成されることとなるが、ホールは有機感光体表面の負電荷の一部と対消滅することにより、負電荷数が減少するものと予想されていた。

有機感光体に対するレーザ照射実験の模式図。(aは有機感光体試料の配置とガラス棒を用いた摩擦帯電の模式図。電子線が有機感光体にあたって帯電するという効果を抑えるために、試料上部にシールドを設置している。bは摩擦帯電によって有機感光体の表面に負の電荷が発生した状態。cはレーザを照射、有機感光体内部で発生したホールと、摩擦帯電で生じた負電荷が結合・消滅し、表面の電荷量が減少した状態。これにより、試料近傍の電場も変化することとなる)

結果は、透過電子顕微鏡の電子線ホログラフィを用いて、シールドの外に漏れ出ている電場の変化が捉えられ、ガラス棒で擦った直後は、有機感光体表面に発生した負電荷に伴う電場が、3重の等高線として観測された。しかし、レーザを照射すると光励起によって生じたホールと 負電荷の一部が結合・消滅し、電場が弱くなり、1本の等高線のみが観察されたという。

シールド(斜線部)の外部の電場を電子線ホログラフィで観察した結果。(等高線状の模様は等電位線の分布を表す。有機感光体試料は、電子線の照射を防ぐために、シールドの下部に設置している。aは試料に摩擦帯電を施した直後の状態。bはレーザ照射を施した後の状態。X-Y線に沿って電位の変化を評価した結果、bに比べてaでは約2倍大きな電位の勾配が観測された)

なお、同手法は、今後の太陽光発電における高効率の発電素子材料などの開発を進める上でも有力な解析手段として考えられるとしており、今後の活用が期待されるとしている。