日立製作所は7月21日、指静脈認証装置の市場動向に関する説明会を開催した。
IT技術の発達により、不正アクセスや機密情報の持ち出しなどセキュリティへの不安が増加している。従来のセキュリティ認証システムは、パスワードやICカードを用いたものが基本であったが、これらは紛失や忘失の危険性があり、拾得者による悪用の恐れがあるなどの問題があり、確実に本人であるという保証が難しかった。そこで、注目されているのが、人間の肉体の情報を活用した生体認証であり、身体の一部であるため盗難の心配もなく、意識して記憶する必要も、携帯する必要もないのが特長となっている。
生体認証として用いられる主なものは「静脈」のほか、「指紋」「顔」「虹彩」などがあるが、虹彩はシステムコストが高く、またシステム規模も大きくなってしまう。また、顔は誤認が多いという問題がある。そして指紋はコストも安く、システムも小さくできるが、近年、偽造などの問題が出てきた。静脈は、「コストはそこそこで、ATMなどで用いられることが示すように安全性が高く、かつ抵抗感も低い」(日立製作所 情報・通信グループ セキュリティ・トレーサビリティ事業部 セキュリティソリューション本部 本部長の中井幸一氏)とする。
同社の指静脈認証技術は、指に近赤外線を透過させると、ヘモグロビンが赤外光を吸収し、その部分が黒く紋様を作るという原理をベースに、イメージセンサでパターンを認識、暗号化して登録するというもの。1997年から研究所レベルで開発を始めた技術であり、「日立の総力を結集して事業化を進めている」(同)というほどの力の入れ具合となっている。
同社の同事業の2008年度売り上げは関連システムを含めて約300億円。主に「金融セキュリティ」「ドアアクセスセキュリティ」「ITセキュリティ」「組込機器セキュリティ」の4分野に分けられ、金融分野では生体認証ATMを採用した金融機関の約80%が指静脈を採用しているほか、KDDI/沖縄セルラー電話の展開する全国のauショップなどに装置約2万台を設置、およそ4万人のユーザーによる大規模システムでの活用など、国内での導入は進みつつある。
一方、海外は「欧米を先行市場と捉え、生体認証装置ベンダへの組み込みモジュール提供による指静脈認証シェア拡大」(同)を狙うほか、中国・アジア地域でも入退管理などの設備/セキュリティベンダとのパートナーシップ強化によるシェア拡大を図っていく段階としており、2009年3月に提携した指紋認証分野で大手となる仏Segam Securiteとの協業を活用して国内外への積極展開を狙うとしている。
具体的には、海外向けとして「空港での入出国管理といった国家セキュリティ市場へ向けて、指紋と指静脈を組み合わせた高セキュリティ性を実現した"マルチモーダル認証"をアピールすることで参入を促進していく」(同)とするほか、国内では高信頼性と高セキュリティ性を確保したクラウドサービスを一般に向けて提供していくとしており、「2010年度にクラウドサービスによる認証プラットフォームサービスの提供を事業化することを検討している」(同)という。
これは、同社の指静脈認証サーバに指静脈ユーザーの個人情報を蓄積し、例えば社内でのコピー機など共有機器での使用者認識、売店での指静脈による決済(指静脈マネー)といった活用のほか、社外での社内やeラーニングサイトへのアクセスのための本人認証といった活用が考えられるとしており、同社ではグローバルにおける指静脈認証市場は「2009年で950億円程度だが、2011年には1,500億円規模に成長する」(同)ものと見込んでいる。
そのため前述もした、海外での国家セキュリティ分野への参入と国内でのクラウドサービス事業の推進により、2009年度~2011年度までの累計で売上高1,100億円を狙っていくとする。ただし、「2011年でも国外は指静脈認証は途上の段階にあるとみており、1,100億円の売り上げの内7~8割は国内での売り上げになるのではないか」(同)との見方を示している。
なお、同社ではクラウド活用の1つとして、指静脈マネーの実証実験として、社内の自動販売機に指静脈認証システムを搭載したものを設置、活用検証を2009年中に開始するとしている。